ここ数日、筆者は機関投資家やファンドに呼ばれて都内を走り回っていた。「中長期の相場観」を皆が聞いてくるのであるが、この先の相場を見通すのは正直言って困難である。筆者は「QE3が実施されるか、欧州の金融機関に公的資金が入るまでは大きなリスクをとらない」ことを勧めているが、すでに大きな損失が発生しており、「この損はなんとかなりませんか?」という話になる。結論を言えば、そういった大きな損は時間をかけて修復していくしかない。

結局、大きな損というのは、損切りをしないから発生するのである。どんな大きな損も最初は小さな損から始まる。損切り注文は自分の相場見通しや相場観と関係のないところで設定しないと、実行できないことが多い。ファンダメンタルズを見ながらメンタルな損切りを行おうと思っても、損失がある一定額を超えると運用者は思考停止に陥るようになっている。規律をもって資産管理行うにはあらかじめ計算されたシステマティックな損切りを行うしかない。

9月以降のリスク資産全部売り相場の中で、機関投資家やファンドの運用状況はかなり傷んでおり、破綻に追い込まれているファンドも多い。NYダウの動きをみていてもわかるが、1日の動きの中で100~200ドルの値幅を記録するのも日常茶飯事となっている。そうした中でアルゴリズムを使った短期売買を行っているシステム系のファンド勢も、大きく運用成績を落としているところが増えてきた。

現在、多くの市場でボラティリティが急騰するという「ボラティリティ・パニック」が起こっている。筆者の関係するファンドでもアルゴリズム運用を行っているが、現在は多くの商品でボラティリティのレベルが高すぎる状況が続いており、売り買いのシグナルが停止する事態となっている。これは運用資産を守るために編み出した損失回避のフィルターである。ドル/スイスは8月に、ユーロ/ドルは9月に手仕舞ってから(チャートの青い部分)、日足ベースでは取引をしていない。それは、ボラティリティ・レベルが高いからだ。

ドル/スイス(左)とユーロ/ドル(右)の日足

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

リスク資産全部売りの象徴がゴールド相場の急落である。危機のヘッジとして買われていたゴールドであるが、ゴールドもリスク資産となっているのが今の相場である。ギリシャ問題の深刻化で金融機関は自己資本比率維持のためのリスク資産の圧縮(リスク資産全部売り)に動いている。この現象はリーマン危機以来のことなので、10月相場には引き続き警戒が必要であろう。

ゴールド先物(日足) ファンド勢の先物ポジション解消で大幅安に

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

日々、欧州関連のニュースで振らされている相場状況だが、ユーロ圏の当局が銀行の資本増強に向け用意を進めているとの観測や、米国の経済指標が市場予想を上回ることが多くなっていることで、リスク回避相場も一服している。

ユーロ/ドルが下げ相場から日柄調整的な揉み合い相場に移行するには、標準偏差ボラティリティやADXのピークアウトを確認する必要があるが、標準偏差ボラティリティにはその兆候がみられる。ユーロ圏の不安心理が落ち着くには金融株の動きが鍵となるが、投機筋の標的となっていた欧州の銀行株の動きも一旦落ち着いており、ユーロ/ドルの相場は乱高下しながらも一旦レンジ相場になる可能性はあるだろう。

ユーロ/ドル(日足) 金融株の動きと連動

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

BNPパリバ(左)とソシエテジェネラル(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

ウニクレジット(左)とデクシア(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

悲観的な相場見通しばかりの世の中だが、相場は循環である。相場が大きく転換するとしたら、それは11月である。リーマン危機後の相場を簡単に言うと、「量的緩和期間は株が高い」「量的緩和をやめるとドルが上がる」ということだ。

11月2日のFOMCでバーナンキFRB議長がどのような手を打ってくるかで、相場の方向が決まるだろう。10月4日の急落から米株市場が切り返した理由も、バーナンキ議長が上下両院合同経済委員会で、米経済の現状を「息切れに近い」としてFRBが一段の緩和策をとる用意があることを表明したからだ。経済が息切れしているのに、バーナンキ議長が何もしないことはないだろう。大きくは11月2日の結果をみて動く局面と言えよう。

ドルインデックス先物(日足) 量的緩和期間以外はドルが高い(水色の部分)


(出所:石原順)

NYダウ先物(週足) 量的緩和中は株が高い(黄色の部分)もうすぐ買い場が??


(出所:石原順)

さて、先週のレポートに書いた豪ドル/円等のクロス円の動向に触れておきたい。豪ドル/円もユーロ/円もまだ20日ATRの上昇傾向が続いており、円高の流れが続いている。豪ドル/円相場は依然、21日ボリンジャーバンド-1σの外での取引が続いている。ユーロ/円の26日標準偏差ボラティリティにはピークアウト感も出ており、売りトレンド相場からレンジ相場に移行するにはここから2~3日の動きが重要となるだろう。いずれにせよ、20日ATRが3日連続で下がるような形にならないと、下値不安の強い相場は終わっていないとみるべきだろう。

豪ドル/円(日足) ATRはまだ上昇基調

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足) 豪ドル/円の下げは豪ドル/ドルが牽引している

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 目先の100円割れは回避できるのか?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑) 下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

本日はBOEとECBの政策会合がある。そして、明日は米雇用統計の発表がある。ECBは金利据え置きか利下げかで見方が分かれているようだが、ポジションをとるのは結果を見てからにすべきだろう。結果をみてから動くことは、相場で長く生き残る秘訣の一つである。