株・為替・商品など、いろんなファンドの運用者の話を聞いた。株の運用者は万年強気の人が多くて、あまり参考になる話はなかったが、商品や為替のファンドの人はストレートにモノを言う方が多いので、いろいろと参考になった。話の結論は「景気の2番底見通しが多い」ことと、「ファンドや運用者の懐事情が相当に悪い」と言うことである。まあ、金融業界は物忘れの激しい人が多いので、ショックからはすぐに立ち直るが、「パフォーマンスの悪化はいかんともしがたい」という話だ。

2011年の金融相場は3月の日本の震災・原発被害による急落、5月の銀相場に端を発するコモディティの急落、そしてこの8月のNYダウ急落とパニック相場を3回も記録している。このようなブラックスワン的な動きを加速しているのはアルゴリズムを使ったロボット売買であることは間違いないが、上記のパニック相場3連発の後遺症で積極的なリスクをとるファンドが少なくなっているのが現状である。

ブラックスワン相場

左:NYダウ8月相場(日足)とオプションボラティリティ(赤)
中央:日経平均3月相場(日足)とオプションボラティリティ(赤)
右:シルバー先物5月相場(日足)とオプションボラティリティ(赤)


(出所:石原順)

それで、世界の景気は回復しているのかというと、ここにきて「失速から2番底を探りに行く」という予測が多くなっている。リーマン危機後、世界のGDPの6%超の財政出動と量的緩和の効果でNYダウやSP500などの株価指数は急激なリバウンド相場となったが、財政危機で大胆な政策がやりにくくなっている現在、正念場はこれからだろう。

NYダウ(左)とSP500(右)の日足 2006年~2011年


(出所:石原順)

ファンドの連中が気にしているのはNYダウではなく米銀株である。下のチャートを見ればわかるように、米国を代表するバンカメやシティグループといった銀行の株価は低位横這い相場のままだ。これが意味するところは米国が日本化(失われた10年)する可能性があるということである。既に米国も日本のような流動性の罠にはまっているという指摘も多いが、このチャートを見ればいずれQE3的な追加緩和をやらざるを得ないだろうという気がするが、株の投資家は今後QE3の発動を待ってから動いても遅くないだろう。ファンド勢もそれまではデイトレードに徹するというところも多い。

バンクオブアメリカ(左)とシティグループ(右)の日足 2006年~2011年

米国の実体経済はよくなっていない


(出所:石原順)

さて、為替相場の動向だが、通貨の世界で2大通貨と言われるドルとユーロの相場に動きがないので、為替の運用者は「商売あがったり」の状況が続いている。6月以降のユーロ/ドル相場は、ほとんどトレンド(方向性)を持っていない。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド


(出所:石原順)

マーケットテーマが格下げや財政危機となるなかで消去法的に買われていたスイスフランだが、当局のスイス高牽制と対処療法によってスイス買いトレンドは先週にピークアウト(消滅)した。

ドル/スイス(日足)トレンド指標はピークアウト

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド


(出所:石原順)

こうしたなか、唯一トレンド相場が続いているのがゴールドである。ファンドや運用者というのは、「損をしていない商品に資金を振り向ける」という習性がある。今年のゴールド相場ではあまり損をしている運用者はいないので、皆がゴールド相場に群がっているのが現在の状況だ。

ゴールド先物(日足)買うものがない中で、ゴールドへの投資が続いている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

ここにきて、ドル/円相場に関する運用者からの問い合わせが多い。「ボラティリティがピークアウトしてきましたが、レンジ相場になると思いますか」という質問がほとんどである。現在、26日標準偏差ボラティリティや20日ATRは低下しているが、オプションボラティリティは横這いながら高値で張り付いたままだ。したがって、どういう戦略を取るにせよ、まだポジションは小さくしておくべきであろう。

ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:オプションボラティリティ(赤)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)上がるも下がるもNYダウ次第

上段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
中段:9日RSI(赤)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

筆者は今、NYダウだけを見ている。相場全体が落ち着く(リスクをとれる環境になる)にはNYダウの変動率(ボラティリティ)が下がらなくてはならない。クロス円の取引者はNYダウ連動なので、特に注意されたい。8月26日のバーナンキFRB議長講演(ジャクソンホール)での「バーナンキ・プット」を市場関係者は期待しているようだが、内容によっては株の失望売りが起こる可能性もある。4回目のパニック相場となると困るので、リスク管理(ストップロス注文をかならず置いておく)だけは怠らないようにしたい。

NYダウ(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:オプションボラティリティ(赤)・13-21日移動平均バンド(水色の帯)


(出所:石原順)