昨今の円高はドル安ということでかたづけられているが、事はそう単純ではない。現在の相場はドルも買えない、ユーロも買えない中での「消去法投資」相場と呼ぶのが正しい。以下の通貨インデックス(データは8月3日時点のもの)比べてみればわかるように、ドルインデックスは低位でのレンジ相場となっており、ドル安トレンドが発生しているような相場ではない。ユーロインデックスも横這いのレンジ相場が続いているだけである。要するに、ドルやユーロの方向性がよくわからない相場状況であり、行き場を失った投機資金が仕方なしにゴールドとスイスと円を買っているのが7月からの動きである。

ドルインデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

ユーロインデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

ゴールド(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

スイスフランインデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

円インデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

ポンドインデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

豪ドルインデックス(日足)

上段:14日ADX
中段:21日ボリンジャーバンド1σ
下段:26日標準偏差ボラティリティ


(出所:ストックチャーツ)

昨日、消去法投資の通貨高に音を上げたスイス国立銀行は、政策金利のレンジを切り下げた。今後数日間、短期市場向けスイスフラン供給を大幅に増やすとしている。また、急激なスイスフラン高に対応する措置で、必要なら一段の措置を講じる方針を発表した。

ドル/スイス(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

8月1日の76円28銭でも介入に動かなかった日本の当局も、スイスが通貨高牽制を発表したことで動きやすくなった。本日、政府・日銀は3月18日以来の円売り介入(単独)を実施した。政策協調の形で日銀は資産買入れ規模を10兆円増加すると発表している。かなり長時間にわたって押し上げる形の介入を行っており、「今回の介入は、結構腰が入っている」との声も聞かれる。当局の腕力相場と投機筋のドル買い戻しで、レポート執筆時点でドル/円は79円38銭まで上昇している。さて、この後ドル/円はどこまで戻り上値を試せるのだろうか?

ポイントは80円である。ここを明確に割り込んで円高進行となったため、80円は上値抵抗となろう。さらに1~3カ月の市場参加者のコストを想定できる移動平均リボンは、現在79円~80円30銭の帯となっており、80円30銭から上のドル/円の上値はかなり重くなるだろう。

フィボナッチのリトレースメントを観てみると、4月高値から8月安値の38.2%戻しが79円80銭近辺、半値戻しが80円90銭近辺となっている。

ドル/円(日足)移動平均リボン(赤の帯)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)フィボナッチのリトレースメント(抵抗ポイント)


(出所:石原順)

介入で一息ついているドル/円相場だが、明日8月5日は米雇用統計がある。世界的に景気が鈍化している中で今週末の米雇用統計が悪いようだと、景気失速懸念でQE3催促相場となる可能性がある。

昨日の米WSJ紙は「米FRBはQE3検討、元高官3人が見通し」という記事の中で、「経済が低迷を続ける一方でインフレが落ち着くならば、FRBは量的金融緩和第3弾(QE3)を検討する必要が出てこようとの見方を明らかにした」と報じた。この報道で昨日のNYダウは大幅な戻り相場となったが、株関係者がいかにQE3をあてにしているかの証左である。

リーマン危機で世界的に大規模な財政出動と金融緩和をやり過ぎてしまったので、各国ともあまり打つ手が残されていない。米国はもう財政出動が出来ないし、景気が回復するまで金融政策で時間稼ぎをするしかない。昨年8月27日にバーナンキFRB議長はジャクソンホール(講演)でQE2を示唆した。今年、ジャクソンホールの講演は8月26日に予定されている。果たして、今年も昨年の再来となるのであろうか?

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策 現在はQE3の催促相場?


(出所:石原順)