すべての帝国はこうして終わりを迎える

 リーマンショック後は、FRB(米連邦準備制度理事会)も日本型のデフレ(長期停滞)回避を大義名分に「バブル飛ばし(損失先送り策)」を続けてきた。世界が抱える累積債務は過去最高を記録、信用の質は低下し、何十年も続く低金利は資産価格を持続不能な高い水準にまで押し上げてきた。

2,300兆ドルのグローバル時限爆弾

出所:ゼロヘッジ

 投資家や政治家、中央銀行の政策立案者がこの事実を認めたがらないのは、痛みが伴うことは先送りしたいという人間の傾向だけが理由ではない。そこには、事実に基づいたもっと恐ろしい理由がある。「株価こそ全て」として、政府は中央銀行に圧力をかけ、中央銀行は株が下落するたびに政策を発動し続けてきた。

 そもそも、経済が成長し、賃金上昇率やインフレ率が高まる好循環にあるのだとすれば、FRBによるゼロ金利や金融市場への介入、また政府による財政赤字を伴う支出は必要ないはずである。

 善意に解釈すれば、「不況脱出のために戦争するよりは、量的緩和政策のほうがまし」という考えでFRBは量的緩和政策を推進してきたのだろう。そうでなければ、こんな副作用の多い政策を推奨する理由がない。悪意に解釈すれば、インフレによる借金の圧縮を狙っているのかもしれない。

 しかし、ものには限度がある。グリーンスパン以降のFRB議長の長期にわたる<インフレ軽視政策>のツケが回ってきたようだ。インフレ(コストプッシュインフレあるいはスタグフレーション)が世界経済を脅かしている。

 バイデン政権はインフレも株の下落も不景気も、不都合なことはすべてロシアのプーチンのせいにするだろう。ウクライナ騒動にかこつけて、バイデンフレーションは隠蔽(いんぺい)される。しかし、CPI(消費者物価指数)や原油の上昇は、バイデンのMMT(バラマキ)とグリーンニューディールが根本原因なのである。

米国のCPIの推移

出所:ゼロヘッジ

WTI原油の推移

出所:ゼロヘッジ

 FRBが市場に全面的に介入し、膨大な量の負債が追加され、政治的な状況は巨大な混乱に陥っている。残っているのは、旧態依然としたカジノ化した市場にけん引された「仮想的な富の効果」だけだ。

 資産と負債を際限なく膨らます「両建て経済」でカジノ化した市場の怖さは、「相場が急落すると資産は減るが、負債は減らない」ということだ。

「中央銀行は単に合法化されたカルテル(共謀)にすぎない。その事実を隠すために中銀支持者は徹底的に専門用語で煙に巻きながら、中銀が商業・大衆・国家に恩恵をもたらすといかに思わせるかを常に意識している。そこには、わずかな光明もない。根底にある基本計画は最初から最後まで私利私欲のために大衆を犠牲にするよう設計されているからだ。この制度は政府の体裁をとった単なるカルテルにすぎない」

(G・エドワード・グリフィン)

帝国のビッグサイクル

出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)

シドニー・ホーマーの「金利の歴史」と戦争という国家最大の公共事業

長期停滞は戦争でしか解決していない
出所:石原順

 2025年には米国の負債が1981年の50倍に膨れ上がるため、経済が減速、あるいは崩壊しても、税収はわずか35億ドルにとどまるだろう。FRBがコントロールを失うことで、アメリカ帝国は金利を支払う余裕すらなく、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性がある。すべての帝国はこうして終わりを迎える。

米国の連邦債務(1971~2025年(予測))

出所:ゼロヘッジ