ドル/円相場は3月11日に発生した東北関東大震災の直後ではなく、3月17日に大変動を起こした。相場というのは皆が構えている時には比較的変動が少ないものだ。「大丈夫だろう」とふと気を抜いたときに、悲劇は襲ってくる。

17日のドル/円相場は昨年11月の安値や1995年4月のドル円相場史上最安値79円75銭をブレイクしたことで、一気に76円25銭まで急落した。NY市場が引けた後の薄商いの中で急落しわずか26分間で4.5%高の円高が起こったのである。

ドル/円(1時間足)3月15日~3月21日 赤枠=3月17日早朝の動き


(出所:楽天証券マーケットスピード)

この急激な円高のトリガーを引いたのは円キャリートレードを行っていた海外ファンド勢で、「円を借りて株を買い進んできたファンド勢が、震災による日本株の暴落で追証が発生し、追証と円の返済を迫られた」ことが原因と報道されている。円のオーバーナイト金利が急騰したことから考えると、ファンド勢が円資金を持っていなかったために、円の調達(円買い)に走ったことは間違いないだろう。

ドル/円相場が80円を割り込んだ時の危険性については、これまでレポートやセミナーで何回か述べてきたが、80円を割り込んだドル/円は80円~72円にある仕組債がらみのデジタルオプションのトリガーやオプションバリアーを断続的にヒットし、日本の個人投資家による損切り注文を巻き込んで大変動となった。(このような円の調達難は、日銀による円売り介入や10兆円を超える資金供給により現在は終息している)

日経平均株価(日足) 東北関東大震災をうけての日本株急落で、海外ファンド勢に追い証が発生


(出所:楽天証券マーケットスピード)

円の調達ができず、オーバーナイト(トムネ)のスワップ金利が急騰


(出所:ブルームバーグ)

ナシーム・タレブは著書『ブラックスワン』で、相場の不確実性とリスクの本質について述べているが、3月17日のドル/円相場はタレブが言うところの「果ての国」の相場であった。相場には常識や平均を超える動きが度々出現する。特に近年は確率的には考えにくい「ありえないなんてありえない」という「果ての国」の相場が勢いを増している。

われわれ相場参加者にとって、「ありえない」があったらどうするか?という問題の答えは一つしかない。それは、あらかじめ計算された損失であるストップ・ロス(損切り)注文を必ず置いておくことだ。G・ソロスであれポール・チューダーであれ、相場の世界で長く生きのびている人は、臆病な人達なのである。相場も自然も人為の及ぶところではない。

ドル/円相場は、18日にG7の協調介入が行われ、81円台へと押し上げられた。10年ぶりの協調介入でありこの介入のインパクトは小さくない。長い下ヒゲが日足・週足のローソク足で出現しており、ドル/円は目先の底を付けた可能性もあるが、日銀当座預金増減と金融調節から推計した18日の日銀の円売り介入規模は5300億円と少なく、月曜日も火曜日も介入がなかったことから、投機筋の間では「押し上げ介入ではない」との見方が出ている。

そうなると、投機筋はこの先介入レベルを試しにいくだろう。介入後のドル/円の下値は80円レベルが意識されているが、円高リスクにも依然警戒が必要だ。一方、上値のほうは83円台がかなり重く、84円台半ばを超えないうちは、円安トレンドは発生せずにレンジ相場となりそうだ。また、福島原発の事故処理はまだ完全解決とまではいかないので、事故対応の状況によっては今後も相場が乱高下する可能性がある。思わぬ相場変動が起こりうるので注意したい。

ドル/円(日足)


(出所:石原順)

ドル/円(週足)長い下ヒゲが日足もRSIは中立


(出所:石原順)

 

売買がうまくいかなくてもいい。損は日常茶飯事だ。しかし、損を放置したり思考停止になってはいけない。相場は1にストップ・ロス、2にストップ・ロスだ。資産管理だけは断乎続けなければならない。相場であれ災害であれ、どんな苦境に陥っても希望を捨ててはいけないし、あきらめてはいけない。その気持ちを失わなければ、被災地も各種の経済的困難もいずれ復興するだろう。それが時というものの機能だ。