米中首脳会談をはさんだここ数日のマーケットは、人民元切り上げ問題や中国の追加金融引き締めを巡る思惑で、リスク資産を一旦手仕舞いする動きが出ている。中国の12月消費者物価指数は鈍化を示しているものの、第4四半期GDPの伸び率は予想を上回っており、中国人民銀行による追加金融引き締め観測がマーケットの重しになっている。中国人民銀行は今後数週間以内に預金準備率をさらに引き上げ、今後2月~4月には追加利上げを実施するとの見方が出ている。

目先は中国の追加金融引き締め観測でリスク資産は買いにくくなっているが、これで現在のバブル相場が終わってしまうかというと、そうではない。中国も米国も1990年代の「日本化=Japanization」の二の舞だけは避けたいと思っているので、急激な金融引き締めはやらないからだ。多少のバブルやインフレという副作用には目をつぶるということになるだろう。

下のチャートは1987年から1990年までの日経平均株価の日足であるが、1987年10月にブラックマンデーという株価大暴落が起った。当時、日本は世界経済の牽引車であり、ブラックマンデー後の金融緩和(国際協調で利上げしなかった)で空前のバブル経済となっていた。日本が利上げに踏み切ったのはブラックマンデーから19カ月後の1989年5月である。その後、日本は急激な金融引き締め=バブル退治に乗り出したため、失われた10年とも20年とも言われる不景気を経験することとなった。

日経平均株価(日足)1987年~1990年


(出所:石原順)

この日本の経験を現在の中国に当てはめてみると、中国の利上げは2008年9月のリーマン危機後から25カ月後の2010年10月である。利上げ開始から7カ月後にバブルが崩壊し奈落の底に沈んでいった日本の大失敗をみている中国は、急激な金融引き締めなど行わなだろう。それは米国のバーナンキFRB議長も同じである。だから、出口は遅れるし、バブルも延命していく。市場は中国の利上げサイクルに神経質になっているが、すくなくとも5月あたりまでの相場は大崩れすることはないと思われる。米国の景気は回復していると言われるなか、QE2(量的緩和第2弾)が実施されているのだから、投機筋も年前半は押し目買いスタンスで動いている。

上海総合指数(日足)2006年~2011年


(出所:石原順)

さて、為替相場に目を移すと、「この通貨は買いだ」とか「この通貨は売りだ」といった相場の柱となる通貨がなくなっている。ドルもユーロも強弱材料が混在しており、マーケットテーマが焦点ボケとなるなか、市場のセンチメントがコロコロ変わる日和見相場となっており、大変難解な展開だ。最近の相場は通貨間の相関性も低下しており、投げと踏みの応酬ばかりでトレンド(方向感)がない。こういった局面は30分足とか1時間足といった短い周期の相場で取引するしかないようだ。

ギリシャ・ポルトガル・スペインなど財政金融不安を抱えるユーロが底堅い展開になっている。現在のユーロの上昇は、ユーロが売られすぎている状況の中でソブリンリスクが後退したため、買い戻し相場になっているというのが市場の認識だ。しかし、1.35レベルまで大幅な買い戻しが出たのは、トリシェ発言が大きい。

ユーロ/ドル(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド(1σ=緑)
下段:DMI(ADX14)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

1月13日の記者会見でトリシェ総裁が「インフレ警戒」の認識を示した。「中期的な物価安定へのリスクが上向く可能性がある」と警告し市場を驚かせたが、伝統的にインフレファイターで、雰囲気ではなくロジック(論理)で動くECBは、「インフレが進行すれば財政金融不安の渦中にあっても金利を上げるだろう」という印象を投機筋に与えたのは間違いない。これで投機筋は腰が引けたのである。

ユーロ圏の消費者物価(黄)と政策金利(緑)

ECBはリーマンショック直前の2008年7月(赤)にも利上げを行っている


(出所:石原順)

ドイツと米国の10年国債金利差(白)とユーロ/ドル相場(赤)

金利差連動相場が続く


(出所:石原順)

近年のユーロ/ドル相場は、金利差によって動いている。米国の方は、タカ派で知られる米フィラデルフィア連銀のチャールズ・プロッサー総裁でさえ、「この政策(QE2)を打ち出さなければ良かったと思うが、現時点でそれを阻止したいという意味ではない」と語っており、FRBの米国債追加購入プログラムに対して確固とした反対を表明する用意はないことを表明している。したがって、当面、米国が利上げに動くことはないだろう。欧州も同様だが、トリシェ発言によって、「今すぐECBが利上げを行うわけではないが、ECBはFRBより早く利上げを行う可能性が高い」という読みが市場に出てきた。投機筋は財政不安のユーロを売って儲けようとしていたが、一旦退散となっているのが現在の相場である。ユーロの歴史的な周期性をみると、例年3月までは大幅に売られることが少ないが(10月~3月の期間はドルが買われにくい)、ユーロの堅調推移はこの季節性も影響しているのかもしれない。

円相場は、ドル/円も豪ドル/円も80円~84円のレンジ内の動きが続きそうだ。新春セミナーでも述べたように、クロス円相場はレンジやもちあいの期間が長く、トレンドフォローにはあまり向いていない。例えば、豪ドル/円の取引ではストップ・ロスを置いて、日足の周期的なボトム(21日ボリンジャーバンド2σあるいは13日移動平均2~3%カイリの水準)や週足の14週RSIの40%付近で買いを狙うのがよいだろう。年前半のQE2期間中はこの戦略は機能するのではないだろうか…。「バブル相場、その心は、押し目買い」なのである。

上段:ドルインデックス・ユーロ/ドル・ドル/スイス(トレンドが発生しやすい)
下段:クロス円(トレンドが発生しにくい)


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド
下段:移動平均乖離線(13日)98(-2%)97(-3%)


(出所:石原順)

豪ドル/円(週足)

上段:21週ボリンジャーバンド
下段:14週RSI


(出所:石原順)