ドルの垂れ流しである米国の追加量的緩和(QE2)に対する批判が相次いでいる。中国やユーロ圏なのからの注文は当然として、グリーンスパン前FRB議長が通貨安政策を批判するなど、米国内からも反対の声が大きくなってきている。市場はこのような空気を読んで、(量的緩和第3弾(QE3)は遠のいた?)、一旦、ドル売りの手仕舞いに動いている。

昨日、米国の投資顧問であるメドレー・グローバル・アドバイザーズが「需給ギャップが予想以上に速いペースで縮小した場合、FRBは米国債買い入れ規模を縮小する可能性がある」というレポートを出したが、基本的に米国が現在の量的緩和政策を放棄することはない。そもそも今回のQE2は金融機関の救済(バブルの敗戦処理)のために行っているので、FRBは米国株が下がれば、また性懲りもなくジャブジャブの状況を作り出すだろう。

その米国株の上昇相場であるが、今回は“かなり変わった上げ方”となっている。本来、素直な上昇相場は、下のチャートの黄枠部分のようにADXや標準偏差ボラティリティが上昇しながら上げ相場のトレンドを作っていく。

NYダウ(日足)の上昇と標準偏差ボラティリティの推移


(出所:石原順)

ところが、今回の上昇相場は標準偏差ボラティリティが下がりながら、ジリジリと上昇を続けているのである。これはどういう事かというと、米国株は「規則正しく上昇している」ということである。標準偏差ボラティリティは、相場の「振れ」や「ばらつき」が一定期間の移動平均と比べてどれくらいの大きさであったかを示す指標なので、極端な話、26日間、NYダウ相場が毎日30$ずつ規則正しく上昇すると、26日標準偏差ボラティリティは0(ゼロ)になってしまうのである。

ボラティリティが下がって相場が上がるという現象は、対外金利差がありキャリートレードが流行っている時のクロス円相場(ATR=変動幅が低下すると円安になりやすい)のようではないか…。今回の株の上昇は中央銀行バブル相場だが、その裏ではNY連銀などの株を上げるオペレーション(POMO)が働いていると思われる。だから、一定の幅で規則正しく上げていくのである。

NYダウ(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ


(出所:石原順)

「今回のQE2は債券運用者にとっては災難だ」とPIMCOのビルグロース氏が言うように、最も長期間の金利の先物である米10年国債先物価格が下落(金利は上昇)している。11月9日の米紙WSJには『ヘッジファンド、オアヒル・パートナーズを運用するアロク・マクヒジャ氏は、現在、高利回り債の大半を売却した。マクヒジャ氏は、ジャンク債の価格があまりに高くなり、今では「目標の達成に過大なリスクを負わねばならない」と述べた。同氏のファンドは現在、住宅ローン債に重点的に投資している。現在、ますます多くのヘッジファンドやプロの投資家がジャンク債を売却し、住宅ローン債や株式を購入している。マクヒジャ氏もそのうちの1人だ。こうしたプロの投資家が撤収するのと入れ替わりに、一般の投資家が大挙して押し寄せている。さらに、通常は株式や国債に資金を投じる投資信託も市場に参入した。株式が小幅の上昇にとどまり、国債の低利回りが続くなか、過去1年半の並外れて高いリターンに魅了されたのだ』という記事が出ていたが、ジャンク債バブルもリスクリターン比が合わず、買えない水準まできているということだろう。

米30年国債先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

上記のWSJの記事に代表される、「買われすぎ・やりすぎの反動」が出ているのが現在の相場だ。やりすぎ相場でまだ崩れていないのは、ゴールドなど一部の商品だけである。

ゴールド先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ


(出所:石原順)

外為相場はドル安政策批判やアイルランドなどの国債利回り急騰をうけたユーロ売りによってドル高に振れているが、それらが決定的なマーケット・テーマになるかは投機筋も疑心暗鬼である。一方では中国元などアジア通貨が上昇しているからだ。相場の動きによってそれらしいNEWSがクローズアップされているが、(相場がニュースを生み出しているだけ)、現在の為替相場の一言で言うと、「11月の決算期を迎えているヘッジファンドの手仕舞い相場」ということになるだろう。ドルインデックスもまだ調整中であり、本格的なドル高相場が展開されているわけではない。

以下のチャートを見れば、主要通貨の日足相場は調整中かトレンド前夜という状況である。

ドル/インデックス

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順)

ドル/円は抵抗であった82円を超えてきた。したがって目先の相場で80円を下抜く可能性はかなり低くなっている。このドル/円のリバウンド局面で、筆者は保有している低レバレッジの円売りポジションが儲かるといいのだが、期待しないで待ってみよう。

ドル/円(月足)60カ月移動平均線乖離バンド-20%(赤)・-30%(青)


(出所:石原順)

ポンド/円(月足)60カ月移動平均線乖離バンド-20%(赤)・-30%(青)


(出所:石原順)

よりアクティブなトレーダーは、日足で相場の方向性が出るまで、<1時間足>でトレードするのが良いだろう。その場合のポイントはADXの波形のきれいな通貨ペアをトレードすることだ。

ユーロ/ドル(1時間足)

上段:21時間ボリンジャーバンド1σ
下段:14時間ADX


(出所:石原順)