投信運用会社が解約停止せざるを得ない理由

 公募投資信託を運用する運用会社には、原則として全ての投資家を公平に扱う義務があります。10億円の運用資産がある投資信託Aの保有者の内訳が、5億円分保有する超大口投資家1人(Bさんとします)と、1,000円分だけ保有する投資家(「1,000円投資家」とします)が50万人だったとします。

 仮に、Bさんと50万人の「1,000円投資家」が同日に解約を申し出た場合、運用会社は、全ての投資家に同じタイミングで解約資金を準備しなくてはなりません。「Bさんは後回しにして、まずは『1,000円投資家』10万人だけを優先して…」ということはできないのです。

 したがって、運用会社が投資信託内で保有する株式や債券を売却できない可能性があると判断した場合は、解約にも制限をかけます。まさに、運用する資産を「売りたい時に売れない」事態に直面したケースです。

 投資家の立場からすると、基準価額が下がり続けていても解約できず、自分の資産が事実上「凍結」された状態となるので、決して歓迎できるものではありません。しかし、運用会社としては致し方ない対応なのです。今回のように、解約まで制限されるのは極めて珍しいことではありますが、これが流動性リスクを負うということの裏返しでもあります。

流動性リスクは、こんなところにも

 実は、流動性リスクは、今回のような地政学的な要因だけではなく、投資信託の世界に広く潜んでいます。日々変動する基準価額や、投資信託の規模を表す純資産残高の値を見ただけでは判別できないので、イメージするのが難しいかもしれません。

 新興国資産以外の代表例としては、時価総額が相対的に小さい中小型株式や、上場から年月の浅い新興市場銘柄があります。これらは、流動性リスクを負う一方で、高いリターンが期待できる銘柄でもあります。

 流動性リスクは、見方を変えれば収益の源泉にもなり得るので、一律に否定されるべきものではありません。実際に、流動性の低い中小型株式を投資対象とする投資信託は、残高が増え、適切な資産規模での運用が維持できなくなる恐れがあるときに販売が一時的に停止されるなど、リスクをコントロールしながら運用されています。

 今回のロシアのように解約まで停止される恐れは極めて少ないですが、流動性の低さゆえ、短期間のうちにファンドの基準価額が急落することはあり得ます。この点は十分に注意した方がよいでしょう。

 なお、投資信託の商品名に「中小型株」や「新興市場」などの文字が含まれていなくとも、実際には運用資産を構成する一部の中小型株が、収益の大部分を生み出しているような投資信託もあります。目先の高いリターンに飛び付くことなく、まずは冷静に、月次レポートなどで保有銘柄を確認し、納得した上で購入を検討しましょう。