相場の取引手法には「順張り」と「逆張り」があるが、筆者はこれまでの「外為市場アウトルック」の連載のなかで、「逆張り」手法についてはほとんど言及してこなかった。その理由は、「逆張り」は相場の流れに逆らって行う高度な取引手法であることと、壊滅的な損を被る可能性がある取引手法(ストップロスは絶対条件)だからだ。

しかし、一方ではドル/円の“日足ベースでの取引”において、昨年の12月初旬から「押し目買い」(逆張り)という相場観を披露していることもあり、「押し目買い」の手法を公開してほしいという声が、連載を読んでいる読者の方々から出てきた。そこで、役に立つかどうかはわからないが、今回のレポートでは、筆者がどのような「意志決定のプロセス」を経て「押し目買い」を行っているかを、具体的に書いておく。このレポートが少しでも楽天FXのお客様のトレードの参考になれば幸いである。

以下は、昨日1月19日(火)のドル/円相場に用いた筆者の実践トレードテクニック(相場の見当のつけ方)の紹介である。当然であるが、このような手法がいつもうまくいくとは限らない。相場は1にストップ、2にストップ、3、4がなくて5にストップである。たとえ、連戦連敗の状況が続いても、決して相場で我慢すべきではない。相場は投資家の都合で動いてくれないからである。このことは自戒を込めて、ことさらに書いておく。

筆者は1月19日現在、ドル/円の日足ベースではドル/円の「押し目買い」という相場観を持っている。では、「“押し目”とはどこなのか?」ということになるが、この押し目の“見当”に使っている指標は、【フィボナッチリトレースメント】である。【楽天証券マーケットスピード】でフィボナッチの支持線を引くと、昨年11月27日のドル安値84円76銭から今年の1月8日のドル高値93円77銭までの<上げ幅>の38.2%押しは90円33銭、50%押しは89円27銭、61.8%押しは88円21銭となっている。

ドル/円(日足)とフィボナッチリトレースメント(押し目の目安)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

19日の相場で筆者は、38.2%押しの90円33銭近辺や50%押しの89円27銭近辺で、ドル/円の打診買い(とりあえず買ってみる)を入れた。19日のドル/円相場は90円31銭まで下落したので、このドル/円の打診買いは約定した。賢明な読者はここで疑問を持つだろう。「円高予想が多いし、もっと円高になったらどうするのか?」という疑問である。それに対する筆者の答えは、「ストップロス注文を置いておく」ということしかない。相場の基本は、資産管理というディフェンスである。

では、どこでストップを入れるか(数学的に計算された最適な損切り幅)という新たな問題が浮上する。これに対する数学的な回答はいろいろあるものの、答えは単純である。ストップ幅は、投資家が「これ以上損したら嫌な金額」か、あるいは「相場を続けるために必要な証拠金の維持」が基準となる。これを筆者は《あらかじめ計算された損》と呼んでいる。

38.2%押しの90円33銭近辺や50%押しの89円27銭近辺でドルの押し目をとりあえず買う(打診買い)という判断には、実は「明確な根拠」がある。それは日足ベースの現在のドル/円の下げ相場にはトレンド(方向性)がないからだ。なぜ、方向性がないと判断するのか?それは【14日のADX(方向性指数)】が低下しているからである。

ドル/円(日足)13-21日移動平均バンド[日足の支持・抵抗帯]と14日ADX


(出所:楽天証券マーケットスピード)

もちろん3日のADXや5日のADXは上昇していて、ドル売り相場は方向性を持っているかもしれない。しかし、そのような複数時間枠のADXを筆者は全くみていない。きりがないからである。仮に、1日から100日のADXの動きをすべて調べたところで、売り買いの判断があいまいになるどころか、意志決定が出来なくなってしまう。逆に言うと、筆者は14日のADXだけを“定点観測”しているのでトレンドがないと判断できるのである。最もこの判定は、筆者の主観的な独断に過ぎない。大切なことは、相場の気配や動きを察するには、いつも同じ指標(何でも良い)をみている必要があるということだ。

1月19日に90円41銭と90円35銭で実際に約定したドル/円の買いポジションを、筆者はなんとか利食いに持って行きたいと思っていたが、夕方の時点では、さらに円高が進みそうな気配が漂いだした。こうなると、「弱き者、汝の名はディーラー」との格言通り、「木曜日には中国のGDPの発表もある。13日と21日の移動平均線はデッドクロス寸前だ。もう一段の円高もしょうがないか……」などと、心理的にはドル弱気に傾いてきた。

ドル/円(30分足)1月19日の動き


(出所:楽天証券マーケットスピード)

このまま自信を失って思考停止になってはまずいので、気を取り直して利食い目標の指し値を入れた。利食いの判断はいつも難しいが、「利食い注文をどこに置くか?」という問題に関しても、筆者は【フィボナッチ】を使って見当をつけている。直近のドルの<下げ幅>(1月8日93円77銭~1月19日90円31銭)の38.2%戻しは91円63銭である。とりあえず、日足ベースでは、この91円63銭と21日移動平均線の91円77銭がドル/円(日足)の上値抵抗である。

しかし、1月21日(木曜日)には世界経済のエンジンである中国のGDPの発表(重要な指標の前にはポジションを大きく傾けたくない)があるため、本日(19日)作ったポジションは早期に手仕舞いたい。ましてや、この日の筆者のポジションは相場の流れに逆らった「逆張り」のポジションである。38.2%戻しの91円63銭や21日移動平均線の91円77銭は、短期売買としては値段が遠い。では、どうするか?

ドル/円(日足)とフィボナッチリトレースメント(戻りの目安)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

そこで登場するのが【20日ATR】である。【楽天証券マーケットスピード】で【20日ATR】をみると、1月19日現在、ドル/円の1日の変動幅の20日平均は0.9071(約90銭)となっている。短期売買やデイトレードで利食いするのに、欲を出してはいけない。デイトレードの利食い幅は【20日ATR】の1/2(半分)から1/4で十分だ。それがナノテク売買時代の「ニューノーマル」手法であろう。

【20日ATR】=90銭の1/2は45銭である。この45銭を筆者のドル平均買値である90円38 銭〔(90.41+90.35)/2〕に加えると、90円83銭になる。これが19日のドル/円相場の筆者の利食い目標値(指し値)である。(ストップは1/2ATR下の89円93銭にセットしてある)

幸いにして、その後のドル/円相場は91円台に上昇し、1月19日の日足ベースの逆張りトレードは終了した。

ドル/円(日足)と20日ATR(1日の変動幅の20日平均)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

以上が、1月19日の“日足ベース”のドル/円の「逆張り」手法である。この日のトレードの何が一番良かったかというと、欲張らなかったことである。相場は明日もあるのだから、決して無理をしてはいけない。

相場はどのタイムフレーム=時間枠(10分足・30分足・1時間足・日足・週足など…)をみるかによって、相場観が全然違ってくる。1月19日の“日足ベース”の逆張り取引手法は、1時間足ベースでみると“順張り手法”と言えなくもない。

ドル/円(日足)の平均足=ドル売り


(出所:楽天証券マーケットスピード)

ドル/円(1時間足)の平均足=ドル買い


(出所:楽天証券マーケットスピード)

「相場」と「時間枠」の関係というのは奥が深い。トレンドフォロー(順張り取引)派の理想の相場展開は、30分足も1時間足も日足も週足も月足も、すべてが買い(あるいは売り)になっていることであるが、「取引時間枠の選択」「パラメーターの最適化」等の問題は、世界中の運用者の頭を悩ませている。

しかし、ファンダメンタルズ分析と同様に、あまり深刻に考えても不安が増すだけだ。筆者は好みの「固定の取引時間枠」に従って、相場は相場に聞くようにしている。

友人に3次元(3D)チャートで先物取引を行っているトレーダーがいるが、筆者はそれをみてもめまいがしてくるだけである。複雑な取引システムは意志決定が遅れるので、現在は全く使っていない。筆者がいつも探しているのは、シンプルな取引手法である。

サブプライム問題やリーマン危機の原因となった「証券化」とは、単純なものを複雑にして、リスクを隠すことをいう。20年超相場をやってきてようやくわかったのは、単純な取引手法や金融商品こそ、実はシステマティックで信頼性が高く、オリジナリティー(独自性)を持っているということだ。独自性のある取引手法とは、いかに真似をしやすい取引手法かということである。

(相場に絶対の法則はありません。相場は確率との勝負です。当レポートは、特定の通貨の売買を推奨するものではなく、また、収益を保証するものではありません。投資に際しましては、ご自身の責任で投資判断を下されますよう、お願い申し上げます)