現在の相場は「世界の株式相場が8カ月に及ぶ上昇で68%高となっても、投資家やアナリストが一段のリスクを取る時機だと確信したり、米経済政策や銀行システムへの懸念を解消することができていない」(ブルームバーグ端末利用者調査)と報道されているように、実体経済悪と金融市場の乖離が激しいので、売っても買っても投資家は「恐怖」に支配されている。楽観と悲観の繰り返しだ。

昨日の相場は米第3・四半期の国内総生産(GDP)を巡る思惑(28日にゴールドマンが+2.7%へ下方修正)から相場が乱高下したものの、終わってみれば全値戻しに近い“往って来い相場”となった。また、課税強化で11%の急落をみたブラジルの株価指数が、昨日一日で6%近く戻すなどランダムな相場が展開されている。

相場が荒れている理由は、(1)出口政策あるいは出口後に対する不安、(2)ファンドの決算要因、の2つを指摘する声が多い。現在の景気回復は、各国政府による対策に負うところが大きく、来年以降の2番底不安が常につきまとう。また、11月15日にヘッジファンドの決算が集中しており、10月末から利益確定の売買が目立っている。

現在はまだ過剰流動性相場が続いているので、“買い方有利の相場”であることは間違いないが、上記の理由から手が出ないのである。

「FRB当局者が来月、利上げの可能性を示すシグナルを出す方法やその時期について議論するだろう」「FRB当局者は長期にわたる超低金利が終了することを市場に知らせる最善策の検討を開始している。この問題は11月3、4両日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議題となる公算がある」(ウォールストリート・ジャーナル)「FOMCが3月から声明で使ってきた、経済状況が“長期にわたって”異例な低金利を正当化する可能性が高いという文言を変更する可能性がある」(フィナンシャル・タイムズ)という報道から、現在、米国の金利市場は動揺しており、米国の低金利長期化観測に変化が出るのか否かが11月4日のFOMCの焦点となっている。2006年以降、米金利との連動性が高いドル相場がここで動くのは間違いないだろう。

筆者はバーナンキFRB議長が本当にインフレを警戒しているとは思っていないし、低金利を早期に解除するとも思っていない。しかし、このままバブルを放置すれば、グリーンスパン時代の二の舞になるので、市場に対してなんらかのブラフをかけてくる可能性はあるだろう。リスク資産回避=ドル高、リスク資産選好=ドル安の図式のなかで、ファンドの決算と相俟って、ドルの買い戻しが出やすい地合なので、FOMCやG20財務相・中央銀行総裁会議には警戒が必要である。

筆者は上記の材料に注目しながらも、ここはテクニカル重視で、相場についていくという姿勢を堅持したい。下のチャートはトレンド・フォロー(順張り)代表的なシステムである「タートル・ブレイクアウト1」である。

ドル/円(日足)「タートル・ブレイクアウト1」


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)「タートル・ブレイクアウト1」


(出所:石原順、ブルームバーグ)

「タートル・ブレイクアウト1」は別名ドンチャン・モデルと呼ばれるリチャード・ドンチャン氏考案の売買モデルを改良したもので、「相場の終値が過去20日間の高値を上回れば買い、過去10日間の安値を下回れば手仕舞い」「相場の終値が過去20日間の安値を下回れば売り、過去10日間の高値を上回れば手仕舞い」という単純な順張りブレイクアウト・システムである。

チャートの赤が売りの期間、緑が買いの期間であるが、今年は“日足ベース”では大きなトレンドは出ていない。相場のダマシを避けるために「タートル・ブレイクアウト1」では25日移動平均と350日移動平均のクロス方向でしかポジションをとらないという“フィルター”をかけることがあるが、この手法だと、現在、ドル/円は「円買いシグナルのみ」に追随するルールとなる。昨年の大相場では「タートル・ブレイクアウト1」モデルは大きな収益を上げたが、2009年の相場ではあまり儲かっていない。

このようなシンプルなモデルが機能しない2009年のこれまでの相場は、どんな順張りシステムを使っても、日足ベースではあまり儲からないと思われる。それはATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)の低下傾向(相場変動幅縮小)をみても明らかだ。したがって、筆者の今年の相場は「1時間足」が主役となっている。

ドル/円(左)とユーロ/ドル(右)の1時間足

21時間ボリンジャーバンドの1σの飛び出し局面と14時間ADX(フィルター)の推移

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の1時間足

21時間ボリンジャーバンドの1σの飛び出し局面と14時間ADX(フィルター)の推移

昨日のようなランダムな相場でも、1時間足のトレンドフォローにとっては絶好の収益機会となる。相場の変動率が上がらない今年の相場では、「21時間ボリンジャーバンド1σブレイク・システム」はトレンドを取るのに最適のツールと言えるだろう。

また、平均足も1時間足の売買で併用している。相場の流れをみるのには、最も簡単なチャートである。

豪ドル/円(1時間足)の平均足

マーケットスピードVer8.2(10月31日リリース予定)では、平均足に加えて、ATRが搭載されるので、楽天FXのお客様はこのツールを有効に使って頂きたい。利食い・損切りをどこに置くかは、相場の変動幅と密接に関連してくる。相場の変動幅こそ投資家が取っている“リスク”の輪郭と言えるだろう。そして、このリスクの大きさによってポジションの増減を調整しなければ、相場を続けていくことは難しいのである。

筆者は毎日、「20日ATRチャンネル」(相場の現在値に20日ATRをプラスマイナスしたバンド)を見ている。これは短期の利食いや逆張りに有効なツールだ。

ドル/円(日足)と20日ATRチャンネル

また、相場の「週間予測」に某ファンドマネージャーの「レンジ予測モデル」を利用しているが、これにも相場変動幅の平均というATRのコンセプトが流用されている。

今週月曜日発表の週間相場予測 豪ドル/円(左)、ドル/円(右)

黄色のゾーンが逆張りのレンジ・緑のゾーンにブレイクアウトすれば順張りに移行

いずれにせよ、イベントや経済指標絡みで当面ランダムな相場が続きそうだ。一本調子で上げ下げしてくれればよいが、現在の過剰流動性下における不景気の株高の環境では外為市場も乱暴な相場にならざるを得ない。不確実性相場でリスクを抑えながらトレンドを抜き取るのは1時間足でのトレードが一番良いだろう。

(ATRや平均足等のいろいろな利用法については、2009年11月4日(水)のネット勉強会「テクニカルチャート講座(MS ver8.2最新機能を使用)」-平均足・ATR・フィボナッチを使ってFXトレード-で説明しますので、興味のある方はぜひご参加ください)