10月6日に英インディペンデント紙が報じた「アラブ湾岸諸国が原油取引での米ドル利用中止に向け、ロシア・中国・日本・フランスと極秘に協議している」(情報源はアラブと中国系在香港の銀行筋)「円・元・ユーロ・ゴールドなどの通貨バスケットの利用が協議の中心となっている。また、原油取引の通貨バスケット建てへの移行は9年以内の実施が提案されているという」という記事は、投機筋のゴールド買い・ドル売りの格好の材料とされたようだ。

昨日のNY時間にドルインデックスは2008年8月以来低水準となる75.767まで下げた。この水準は重要なサポートラインであり、現在、ドルが一旦反発するか、ドルの底が抜けるかの正念場に差し掛かっている。

ドルインデックス(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

グリーンスパン前FRB議長が金本位制論者だったことから、1990年代には通貨バスケット構想が外為市場の一部で噂になり、カーター政権時代にはIMFのSDR(特別引き出し権)を基軸通貨として使う構想も浮上したようだが、これらは噂であり(当然だが)これまで実現はしていない。しかし、昨年のリーマンショック以降、FRBのポートフォリオが最大のバブルとなりドルの信任が揺らぎだしてからは、グローバルマクロ投機筋のドル売りのロジックとして通貨バスケット構想や金兌換復活構想などがリバイバルしている。ヘッジファンドのポールソンから独立した当たり屋ファンドマネージャーであるペレグリーニ氏が「わたしはFRBの行動に全く信頼を置いていない」と述べているように、市場には潜在的な中央銀行バブルへの恐怖感がある。今は金本位制ではないので、いくらでも印刷機をまわしてマネーを供給することが可能(歯止めがない)であるが、これをやっているとバブルの発生と崩壊・インフレ(金利上昇)・通貨安といった副作用がかならず出てくるのである。

1966年の論文『金と経済的自由』でグリーンスパン氏が述べた「金(ゴールド)と経済的自由とは不可分である。金本位制という制度下でなければ、インフレーションという名の略奪から我々の資産を守ることは出来ない。我々の財産を守るには、金が欠かせないのである。このことをしっかり理解していれば、政治家達が金本位制に反感を感じている理由が、容易に理解できるだろう」という資産防衛意識が中国や世界の富裕層を触発している。

ゴールド高を牽引しているのは中国である。市場では「中国政府が金準備を増やす」という見方が根強く、売り物を大量に拾っているとの噂もある。中国としては、ドルの“代替通貨”としてユーロは当てにならないので、実物資産の購入や金準備を増やすしかないだろう。

ゴールド先物(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

現在、先進国経済はディスインフレかデフレに向かっているので、現在のインフレヘッジとしてのゴールド高がいつまで継続するかはわからないが、資源パラノイアと呼ばれる中国勢はとにかく一定量を保有するまでは買い漁るので、この動きは侮れない。G7では米国の代弁者と言われるカナダからの発言が目立ったが、カナダのフレアティ財務相は「世界の貿易不均衡を是正するには柔軟な為替レートの推進が重要な鍵になる」と述べている。G20が米貿易赤字などの世界的な不均衡の是正を進めていくには、穏やかなドル安が不可欠だが、今週のゴールド高によってドル安のトレンドが強化されていることに注意したい。

現在、利上げをした最強通貨豪ドルがドル安の牽引車となっているが、10月後半に上がることの多いユーロの動きにも筆者は注目している。買いは豪ドルとユーロ、売りはポンドとドルというのが基本戦略だ。G20の合意とはうらはらに、通貨安を歓迎している英国をはじめ、保護主義的な観点からほとんどの国は“急激な”自国通貨高を避けたい。新興国で自国通貨売り介入もちらほら出てきたが、日本は円安政策をとらない表明をしているので、ポンド/円を中心に今後も投機筋のターゲットにされやすい。

左から豪ドル/ドル、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、ドル/円の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/ポンド(左)とユーロ/ポンド(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

左から豪ドル/円、ユーロ/円、ポンド/円、ドル/円の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

基本的にバブル(過剰流動性)相場の中でのマイルドなドル安相場が続いているので、日足ベースでも1時間足ベースでも気まぐれな動きをするのが現在の相場の問題点だ。相場観が当たっていても、ポジションを切らされてしまうという局面も多い。なかなか手強い相場である。ドル/円の88円が堅く、ここを叩けなかったので買い戻しが出ている。3連休前のポジション整理で円高も一服しているが、G20およびIMFと世銀の総会で確認された穏やかなドル安政策という大きな流れは当面変わらないだろう。

ポンド/円(左)と豪ドル/円の1時間足

21時間ボリンジャーバンド1σの飛び出し局面と14時間ADXの推移
上がったり、下がったり、いそがしい相場である


(出所:石原順、楽天証券)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年10月8日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(左)とドル/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)