9月24日のFOMCは「MBS(住宅ローン担保証券)とエージンシー債(住宅関連機関債)の購入ペースを鈍化させ、当初は年末に終了する予定だった購入プログラムを3カ月延長する方針(購入総額は1兆4500億ドルに据え置き)」を決定した。FRBは8月のFOMCで「長期国債買い入れを1ヶ月延長・10月末までに終了」することを決定して以来、金融正常化(出口戦略)に向けてゆっくりと動き出していると言えよう。現在のバブル相場はFRBのポートフォリオの膨張で成り立っているので、FOMCの決定はバブル減速要因だが、低金利政策は当分続くため市場は楽観しているようだ。

現在の金融バブルに沸いている株式相場が金融正常化を経て「業績相場」に移行すれば問題がないが、これはかなりハードルが高いのではないかと筆者はみている。むしろ、過剰流動性を吸収することによって、金融相場が「逆金融相場」になるのではないかという懸念がある。

FRBのバランスシート(2008年1月~2009年9月)


(出所:石原順、クリーブランド連銀)

9月14日の英テレブラフ紙に「米銀は貸し渋りを拡大しており、信用供給の総量が減少し、これを受けてドルの流通量も急減している。減少のスピードは大恐慌の1930年代初頭を思わせる激しさである」という「米景気のW底懸念」の記事があったが、どうもバブル相場の裏側で見えない金融収縮が始まっているような気がする。

時価会計が凍結されているうちは、デリバティブの損失も表面化しないし、損切りも出てこないが、現在の株高が砂上の楼閣的な危うさを内包していることは頭に入れておきたい。デリバティブ商品の損失の多くは簿外(オフ・バランス)であり、決算発表の数字だけでは金融機関の全容が見えない。バーナンキFRB議長は「景気底打ち宣言」をしているが、話半分に聞き流しておくのがよいだろう。米CNNの世論調査で86%の米国民が「米国経済は景気後退に入っている」と答えているように、米国の実体経済は実質17%を超える大量失業や、米銀を直撃する商業用不動産の問題等、この先も難題だらけだ。一方、米銀は大口客となっているFRBを窓口に低利で資金調達が可能なため、行き場のない資金を金融市場に投入している。その結果、金融商品の世界だけはどんどんバブルが進んでいく。現状、このような二極化と楽観・悲観のせめぎあいの中で、筆者が何に注目しているかというと、それは米銀の株価である。米銀行株の指数が上がっているうちは金融バブル相場が継続するが、逆金融相場になったときには、この指数が最も敏感に反応するだろう。

フィラデルフィアKBW銀行株指数(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

通貨供給量を増やしすぎた結果としての株高の裏側で、外為市場ではドル安という副作用が露呈してきている。また、倍率という比較観からは、FRB以上にポートフォリオを膨らませているのがBOE(英中銀)である。8月あたりから英国の財政不安や英商業用不動産ローン問題が浮上し、ポンドは資金逃避と投機筋の売りで軟調な展開が続いている。

中央銀行のポートフォリオの拡大比率


(出所:石原順、ブルームバーグ)

英銀はロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループとロイズ・バンキング・グループの2行が、英不動産市況の低迷から合計3兆円近い評価損を計上しており、英商業用不動産ローンの大半がデフォルト状態で借り換え困難と言われている。先週のレポートで「現在、ユーロ/ポンドに日足ベースでトレンドが発生(ユーロ買い・ポンド売り)しており、投機筋の注目を集めている」と述べたが、昨日はキング英中銀総裁が「ポンド安が輸出促進による英経済リバランスの助けになる」と保護主義的発言をしたことでポンド売りに拍車がかかり、ユーロ/ポンドが急騰、ポンド/ドルは急落した。

ユーロ/ポンド(左)とポンド/ドル(右)の日足

上段:14日ADX(赤)と26日標準偏差ボラティリティ


(出所:石原順、ブルームバーグ)

今年のポンド相場は対ドルで比較的底堅い動きとなっていたが、現在の外為相場は紙幣の印刷需給相場である。ようやくポンド相場にも大量印刷のツケがまわってきたようだ。ポンド/円相場の日足ベースでもトレンドが発生しつつあり、大きな相場となるか注目したい。

ポンド/円(日足)21日ボリンジャーバンドと14日ADX


(出所:石原順、楽天証券)

リスクを抑え堅実な売買を行いたい投資家は、1時間足で21時間ボリンジャーバンド1σのブレイクについていくのがよいだろう。現在のポンドは「売りトレンドの自己強化プロセス」に入っており、豪ドルやユーロよりも利鞘が大きい。(筆者はポンド相場はあまり好きではないのだが……)

ポンド/円(右)とポンド/ドル(左)の1時間足

21時間ボリンジャーバンド1σのブレイク(黄色の枠)と14時間ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

9月24日現在の主要各国の政策金利は、日本=0.10%、米国=0.00-0.25%、欧州=1.00%、英国=0.50%、スイス=0.25%、オーストラリア=3.00%、ニュージーランド=2.50%となっている。紙幣印刷需給相場は、すなわち金利相場でもある。おそらく英国の金利はあと0.25%下がるだろう。

2009年3月17日を100とした円相場の推移

3月FOMC後の円相場


(出所:石原順、ブルームバーグ)

対円相場は、現在、ポンド安以外に明確なトレンドがないので、ややアプローチが難しい。もっとも出口に近いと言われ、今年の最強通貨となっている豪ドルは、円高局面でも下方硬直性があるので、円買い局面は他の通貨ペアを選択したほうがよいだろう。

ユーロ/円(右)と豪ドル/円(左)の1時間足

21時間ボリンジャーバンド1σのブレイク(黄色の枠)と14時間ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

ドル/円相場は近くて遠い90円(オプションの防戦+7月31日以降のゴールドマンの執拗な円売り推奨が原因か?)などと言われているように、90円が堅いサポートとなっている。本格的な円高トレンドが発生するには、もっと相場の変動率(ボラティリティ)やATRが上がらないと駄目だ。9月25日現在、14日ADXも26日標準偏差ボラティリティもピークアウトしており、仕切り直し相場となっているが、“4度目?の正直”となる90円ブレイクの可能性はまだ残っている。いずれにせよ、「相場に逆らわずについていく」というスタンスを維持したい。

ドル/円(日足)14日ADX(赤)と26日標準偏差ボラティリティ


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年9月24日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(左)とドル/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)