IMFによるとG20諸国で計12兆ドル(93円50銭換算で約1,122兆円)の緊急対策が実施されている。MV=PYの恒等式から景気がその分持ち直すのは当然だ。ただし、株価はすでにそれを織り込んでいる可能性がある。現在、世界中の株価が割高な水準まで買われており、 バリュエーション(PER・PBR・配当)的には買いづらくなっている。一方、金融市場はジャブジャブの状況に変わりはなく、時価会計も棚上げされているので損切りがでてこない。したがって、大きな下げトレンドも出にくいと思われる。

このような上にも下にも動きにくい状況のなかで、投機筋は収益機会を作るため上海株を材料にしているようだ。リーマンショック後、株価大暴落に見舞われた中国は4兆元の景気対策と併せて、金融機関に対しての融資拡大を要請した。中国の新規銀行融資は昨年1年間の増加額が約4兆9,100億元だったのに対して、今年上半期だけで約7兆3,667億元にもなっている。市場の噂ではこのうちの2割程度は株式市場に流入しているという。中国株がバブルするのは当然である。

中国の新規銀行融資(上段)と中国 上海総合指数(下段)
2000年1月~2009年7月


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ところが、7月の新規銀行融資額は6月の約1兆5,300億元から約3,559億元に急減したため、足の速い投機筋が出口政策を警戒し株式市場から資金流出が起こった。これで、バブル崩壊かと弱気筋の声が大きくなったが、中国株の下落はガス抜きの域を出ていないと筆者は思っている。なぜなら、上海株が下落基調になってからも、米国株は上昇しているからだ。資金が中国から米国株や日本株にまわっているだけである。

中国 上海総合指数(上段)と米S&P500株価指数(下段)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

市場の目は徐々に出口政策や出口政策後に向いているが、超金融緩和のジャブジャブ状況はしばらく続くため、市場に方向感は出にくいであろう。外為市場も明確な方向性は出ていない。
豪ドル/円の14日ADXをみてもトレンドレスで移動平均線も横這いだ。

豪ドル/円 21日ボリンジャーバンド1σと14日ADXの推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

取引の軸足を1時間足での取引に移すことを推奨して3週間目に入るが、1時間足はどのような相場でも収益機会があるので、この売買手法を継続するのが有効だろう。

豪ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンドと14時間ADXの推移

ADXが上昇し相場がボリンジャーバンドの1σの外にある時が強いトレンド期間
(ADXの上昇局面で移動平均線に傾きがあるのを確認して、ボリンジャーバンドの1σの外側でのみ取引している。ストップ・ロス注文はボリンジャーバンドの1σの近辺に置いている。この売買手法はクロス円相場に適しているが、変動率の上がらないドル/円相場では機能しにくい)


(出所:石原順、楽天証券)

8月25日のネット勉強会「マーケットスピードで為替チャートを分析!」の事前コメントでは、人気のあるテクニカル指標:MACDに関する質問がいくつか寄せられていた。ここで補足しておきたい。

MACDは<ドル/円取引>には相性のよい売買手法である。以下のチャートは過去1000日間のドル/円相場と豪ドル円相場に、MACDのパラメーターを筆者が最適化したものである。(過去1000日のデータを使って、儲かるように筆者がカーブフィッティングしたもの)

ドル/円相場(日足)MACDの収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

一方、ドル/円を除くいわゆるクロス円相場との相性は今ひとつだ。

豪ドル/円相場(日足)MACDの収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

おなじことはストキャスティックにも言える。以下のチャートは過去1000日間のドル/円相場と豪ドル/円相場に、ストキャスティックのパラメーターを筆者が最適化したものである。

ドル/円相場(日足)ストキャスティックの収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円相場(日足)ストキャスティックの収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

どうもドル/円相場には<トレンド系指標>よりも、<オシレーター系指標>が合っているようだ。また、同じ売買手法を使っても、通貨によってパフォーマンスが大きく異なる。投資家は、それぞれ自分の感覚にあった通貨と売買手法を身につけることが必要だろう。

今回、筆者は後出しジャンケン的な最適化済みのチャートを掲載したが、これは単なる参考データ(シミュレーション)で、実際にこの手法で売買しているわけではない。

最適化は将来の収益を保証するものではない。過信すると痛い目にあう。

以下はドル/円相場の過去1000日間のデータに40日移動平均線と終値(上にブレイクで買い・下にブレイクで売り)の収益と売買シグナルをプロットしたものである。2007年半ばから2009年前半の時期は儲かっているが、あとの期間はさっぱりである。

ドル/円相場(日足)40日移動平均の収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円の44日移動平均は2008年半ばから現在まで驚異的なパフォーマンスを上げているが、それ以前は(大きな損失こそないものの)ほとんど儲かっていない。

豪ドル/円相場(日足)44日移動平均の収益(上段)と売買シグナル(下段)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円相場(日足)44日移動平均の収益(上段)と売買シグナル(下段)
2005年9月~2009年8月


(出所:石原順、ブルームバーグ)

どんな売買手法も万能ではない。絶対に儲かるシステムもないだろう。相場というのは確率にかけるゲームのようなものであると思われる。不確実性の高い今後の相場に対処するには、21時間ボリンジャーバンドの1σ抜けとADXのシグナルを併用した売買が一番手堅い(ケガの少ない売買手法)と思われる。それは株のインデックス取引でも同じである。

上海株(1時間足)と21時間ボリンジャーバンド


(出所:ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年8月27日NY序盤まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)