筆者の周辺の市場参加者に意見を聞いたところ、現在、相場の先行きに対する見方が楽観派と悲観派にはっきり分かれている。ここまで相場に対する強弱感が対立するのはめずらしい現象だ。楽観派と悲観派の違いは明確で、つまるところ、昨年の大暴落相場を100年に1度の経済変革現象とみるか、4~10年周期の市場の調整とみるかの認識の差である。

楽観派の意見を総括すると「現在の不況は4~5年、せいぜい10年周期の循環的な不況である。しかし、“相場的には100年に1度の変動”が昨年起こったので、欧米の当局者はこの不況を“100年に1度の不況”と認識し、ジャブジャブのリフレ政策を継続している。したがって、この相場はバブルするに決まっている。ITバブル崩壊後、住宅バブルで米株式相場が2003年から2007年まで上昇したように、現在は住宅バブル崩壊後の“100年に1回の官製バブル”が始まっている」ということになる。

2001年ITバブル崩壊後のNYダウの推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

対する悲観派の意見は「現在のバブルはドルの垂れ流しによる借金バブルだ。こんな相場がハッピーエンドで終わるわけがない。マネーの流通量を増やせばすべてが解決するわけではない。それは1990年以降の日本経済が証明している。昨年来、これだけのマネーを増刷しても金融機関の中で滞留しているだけで、市中にはまわっていない。FRBのポートフォリオは危機的状況にあり、いつまでもドルを印刷できるわけがない。副作用はスタグフレーションだ。景気が回復しているというが、失業問題をはじめ実体経済の内容が悪すぎる。現状の不況下では信用創造や経済の乗数効果が期待できないので、対策が一巡すれば来年以降の世界経済はデフレ不況に突入するだろう」というものだ。

ブルームバーグ(情報ベンダー)が配信するニュースをみていても、「中国株:極度に泡のような状態、調整懸念(アバディーン・アセット・マネージメント)」「中国株は反発へ、世界株追随(米証券会社アウアーバッハ・グレイソン)」という両極端なニュースが並んでいる。また、悲観派の相場予測の数値は、予想レンジの桁(ケタ)がとんでしまっている。「米国株は劇的に過大評価、金融危機の打撃は継続」として、米資産運用会社フェデレーテッド・インベスターズは、S&P500株価指数が最終的に400まで下落すると予想している。エリオット・ウエーブ・インターナショナルのロバート・プレクター氏は、「原油相場は向こう10年以内に1バレル当たり10ドルを下回る水準まで下落する可能性がある」と述べている。

楽観派、悲観派、どちらの意見も話としては面白い。どちらの意見を聞いてもその気にさせられるが、正直なところ筆者はよくわからない。結局、相場は相場に聞くのが一番良い。相場は上記のような楽観派(買い方)と悲観派の(売り方)の戦争である。筆者が注目しているのは買い方と売り方のどちらが有利な立場にあるかであり、それを判断するには相場の価格と時間の分析をするしかない。その際、重視するのは勝算(確率)である。

現在の買い方と売り方の戦線をみてみよう。現在、豪ドル/円相場は移動平均リボン(市場参加者の1~3ヶ月の平均コスト)の中でのもみあいとなっており、ニュートラル(中立)な状況である。ドル/円相場は移動平均リボンの下で相場をやっているので、売り方がやや優勢な状況にある。

豪ドル/円(左)とドル/円(右)の移動平均リボン(市場参加者の1~3ヶ月の平均コスト)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

最もトレンドが明確な豪ドル/円の日足チャートをみると、8月20日現在は14日ADX(DMIのAverage Directional Index)が下落中であり、現在の相場はトレンドを持っていない。したがって、買っても売っても日足ベースでは勝つ確率は大きくない。

豪ドル/円(日足)21日ボリンジャーバンドと14日ADXの推移

ADXが上昇し相場がボリンジャーバンドの1σの外にある時が強いトレンド期間
(ADXの上昇局面で移動平均線に傾きがあるのを確認して、ボリンジャーバンドの1σの外側でのみ取引している。ストップ・ロス注文はボリンジャーバンドの1σの近辺に置いている。この売買手法はクロス円相場に適しているが、変動率の上がらないドル/円相場では機能しにくい)


(出所:石原順、楽天証券)

筆者は日足ベースでトレンドがないので、現在、豪ドル/円を<1時間足>で売買している。(取引時間枠を短縮あるいは拡大すると相場認識が変わる)今年はバブル環境にあるので、日足ベースではなかなか売りトレンドが発生しないが、<1時間足>では売りの収益機会も多い。<1時間足>の売買手法も日足と同様に、14時間ADXと21時間ボリンジャーバンド1σを使った「順張り」である。

豪ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド1σと14時間ADXの推移(1)


(出所:石原順、楽天証券)

豪ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド1σと14時間ADXの推移(2)


(出所:石原順、楽天証券)

日々、株価連動となっているクロス円相場であるが、多くのアナリストが指摘しているように、毎年9月の米国株のパフォーマンスはよくない。季節要因という確率論からいって、注意すべき現象だろう。BOAのアナリストは「米株相場は8月か9月に天井を付ける傾向があるため、われわれは株式市場の調整につながる、中期的なトップが形成された兆しを探っていると説明。9、10月にかけて15-20%下落するリスクがある」(ブルームバーグ)と予想している。

先週のレポートで指摘したように、パターン分析が示唆する「バブル相場の最もおいしい半年間」は今月で終わるので、しばらくは慎重な姿勢で相場に対処したい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年8月20日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)