6月の米雇用統計の結果を受けて株安やリスク回避のクロス円安となったが、筆者はこの動きをあまり重視していない。雇用統計が芳しくないということは、出口政策など時期尚早ということであり、バブル政策の延長化につながる材料なのである。

昨日発表された6月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数の減少幅が47.7万人と、エコノミスト予想 の中央値(36万7000人減少)を大きく上回った。また、失業率は、前月の9.4%から9.5%に上昇し、1983年8月以来の高水準となっている。株や社債が上昇しても金融の世界がバブルしているだけである。米国では景気後退入りした2007年12月からすでに650万人の雇用が失われたといわれるが、出口政策は簡単ではないだろう。

現在の株高は(1)中央銀行のバブル政策を背景にした金融株の上昇(2)財政出動を背景にした資源・素材株の上昇で成り立っている。株高の要因がすべて国策である以上、国策に従って相場をやるしかない。増税に対する不満や税金で企業を救済することへのアレルギーから財政出動は難しくなっている。残されたバブル延命の手段は伝統・非伝統的を問わず金融政策しかない。日銀もECBも米国の顔色を伺いながら同調した政策をとるので、結局のところFRBの政策をみていればよいのである。

先週のレポートで「FRBは6月24日のFOMCで【出口戦略】にまったく言及しなかった。したがって、現行のバブル相場は、7月21日予定のバーナンキFRB議長の(金融政策に関する年2回の)議会証言まではすくなくとも継続されるだろう」と述べたが、中央銀行バブルの行方は、やはり7月21日のバーナンキの議会証言と8月11日のFOMCがポイントとなるだろう。

リーマンショック以降は、信用リスクが低下すれば株も原油もクロス円も社債もすべて買われている。今後、信用リスクが上昇すれば昨年のリーマン危機のようにすべて売られるだろう。信用リスクが相場の焦点で、こうした視点で見ると実に単純な相場である。

その信用リスクであるが、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のドル金利の傾向をみているだけで十分であろう。現在、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3カ月物のドル金利は低下中であり、投資家の不安心理のバローメーターであるシカゴCBOEのVIX指数もこれに連動している。

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3カ月物のドル金利(左)とVIX指数(右)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

外為市場はドルの大増刷というドル安要因と、リーマンショックによる米貯蓄率上昇・経常赤字減少というドル高要因の綱引きで視界不良となっている。クロス円相場も株価連動のなかで上下動を繰り返しているだけで、トレンドは発生していない。このような局面で収益が上がるのはボラティリティ(オプション)の売り方だけである。バーナンキFRB議長の議会証言まではバブル相場の先行きがはっきりしないため、凪相場が続く可能性が高い。相場変動率が低下しているうちはトレンド(方向性)が出ていないので、短期の逆バリ取引が最も有効である。この局面は短期売買で収益を上げるしかない。

豪ドル/円(日足)

14日ADX方向性指数(赤)と26日標準偏差ボラティリティ(青)の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(左)と日経平均株価(右)の26日標準偏差ボラティリティの推移

外為市場も株式市場もトレンドのないニュートラルな状態


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年7月2日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)