米国の景気実態は悪い。このような状況の中で原油が高騰し、サブプライム問題後の金融機関の体力は疲弊している。昨今、先進国はどこも景気が減速中である。

米国の現在のプライオリティーは金融機関のファイナンス(資金調達)とスタグブレーション(不景気の物価高)回避である。ファイナンスに関してはポールソン米財務長官の中東訪問で明らかなようにオイルマネーに頼らざるを得ない。オイルマネーを米国に誘導するにはドル高が必要条件である。またインフレに悩む中東諸国にとって対ユーロでのドル高は輸入インフレを抑制する有効な手段となる。ユーロが適正水準まで下落することは、4月のG7でのフランスを始めとするユーロ加盟国の要望であり異存はないだろう。原油の高騰に関しては筆者がこれまで述べてきたようにドルを上げるしか解決の方法はないのである。

要するに米国の金融機関のファイナンスとスタブフレーション回避には「ドル高誘導」しか方法はないのである。そもそもここまでドル建ての国際商品価格が高騰した背景の一つは、グローバル金利としての米国の金利が異常に低いために投機資金がより高い収益を求めて新興市場や原油市場にシフトしたことにある。しかし、サブプライム問題後の金融機関の体力を考えると、おいそれと政策金利(短期金利)は上げられない。そこで米国はインフレ警戒をあおることによって、長期金利を水準訂正させたのである。イールドカーブの正常化、つまり長短スプレッドの拡大によって金融機関の体力は徐々に回復に向かわせる条件を整えたのである。

6月3日以降、バーナンキFRB議長、ポールソン米財務長官、ブッシュ大統領が何度もドル防衛に言及している。あれだけ言えば当然マーケットが米国のドル政策はこれまでのドル安放置から転換したと判断するのは当然であろう。このドル高政策は基本的に米大統領選までは変更がないと思われる。

上記の結果、ドル/円相場は6月12日には108円台まで上昇してきた。107円40銭を超えてきたことで、2月14日高値の108円61銭を試す動きとなっている。この先のドルの大きな抵抗は、2007年6月高値124円から2008年3月安値95円の半値戻し水準である110円があげられよう。

では手放しでドル買いを放置してよいかといえば、これが非常に難しい。3月17日安値95円78銭を起点にドル/円の上昇は12週間に及んでおり、すくなくとも周期的な高値のピークを数週のうちにつけるであろう。3月・6月は米金利の反転しやすい月であり、ドルも6月後半が反転ポイントとなることが多い。米金融機関の決算にむけたリパトリ、サムライ債の大量発行、日本のボーナスシーズンなどドル高を支援する需給要因は多いが短期周期的なドルの下落調整がいつ起こってもおかしくない時間帯に入っていることには留意したい。

本日、6月13日から始まる大阪G8財務相会合ではポールソン米財務長官が強いドル支持を訴える可能性が高い。また6月22日にはサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相の呼びかけで産油国と消費国の緊急会合が開催される。6月9日にアラブ首長国連邦のスウェイディ総裁は「湾岸諸国が進めている通貨統合計画は、インフレにより遅延する可能性がある」「かつてはインフレが問題になることはなかったが、現時点では通貨統合をめぐる各国の見解相違の一因になっており、これが単一通貨の導入時期を当初の2010年以降に遅延させる可能性がある」と述べたが、6月22日前後まではドル高を誘導する要人発言が予想されドル買いバイアスがかかりやすい。6月第4週でドルが一旦ピークアウトするか否かが筆者の現在の注目点である。

ドル/円(日足)と標準偏差ボラティリティ


(出所:石原順、ブルームバーグ)

米10年国債金利とドル/円(日足) ドル相場は米国金利の動向次第


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)
緑のATR低下期間がキャリトレードおよび円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)
緑のATR低下期間がキャリトレードおよび円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)
緑のATR低下期間がキャリトレードおよび円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)