中国が持続的に成長を遂げるために不可欠な2つの鍵

 先日、ある日本の元外交官と議論をしました。日本の対アジア太平洋政策にも深くかかわってきたこの方は、中国の行き先について、次のような問題提起をしてきました。

「中国共産党が生き残れるか否か、経済成長が鍵だと思う」

 上記の疑問に答えるための視座が詰まった一言です。中国の人々は、お人好しでも、とんでもない鈍感力、忍耐力を持っているのではありません。経済力や軍事力といった国力が向上し、コロナ禍を含め国際的な影響力が増し、五輪を開催したりする中で、党指導部の宣伝工作も功を奏して、国民の愛国心が高揚しているという経緯はあるでしょう。

 ただ、14億の人民が非民主的に選ばれ、治める共産党を受け入れているのは、経済が成長しているから、生活が物質的に豊かに、便利になっているからです。沿岸部と内陸部、都市部と農村部のいわゆる格差が問題視されることがありますが、これらすべての地域において、人々は、他者、他地域との比較ではなく、自らの昔と比べて豊かになっているのです。

 ただ、仮にこのような前提が崩れたらどうなるか。

 物価の高騰に収入が追い付かなくなったら? 子供の教育にかかる費用が高すぎて、生活が困窮したら? あるいは、中国と諸外国との関係が悪化し、経済的に孤立する中、取引が停止、経営が苦しくなり、多くの倒産企業、失業者が出たら?

 それでも、人々は非民主的に君臨、運営する共産党政権を“甘んじて”受け入れるでしょうか? 私はそうは思いません。人民が経済成長の果実を直接的に享受できなくなれば、それこそ、捨て身の精神で、暴動や造反を引き起こす場面も出てくるでしょう。盛衰を繰り返した中国の歴史が証明しているとおりです。

 非民主的な中国共産党による国家運営が持続的に実行され、そのために、経済が持続的に発展していくかどうか。本稿の最後に、私が考えるところを2点議論したいと思います。

 一つ目が、経済が永遠に成長し続けることはない、人々の生活が永遠に経済の恩恵を受け続けることはないという合理的判断・予測に立脚し、経済成長以外で、人々の納得感を増大させる分野を増やしておくことです。例えば、言論の自由、市民の政治参加などです。

 景気が悪くなり、企業経営が悪化したり、中国と諸外国との関係が悪化しても、それを解決するための政策議論や世論形成に、自らも参加しているのだからという当事者意識(オーナーシップ)が普及すれば、人民の共産党政権への許容度、包容力も増していくでしょう。

 二つ目に、経済を持続的に成長させるための措置を取る、対策を打つことです。この意味で、鍵を握るのがイノベーション(中国語で「創新」)です。習近平政権は「創新」国家戦略の観点から重視し、これからは、投資、資源、労働力といった要素ではなく、イノベーションに立脚した成長戦略を掲げ、経済を持続的に発展させるべきだと主張しています。

 しかしながら、私が見る限り、習近平政権になって、政治の経済に対する介入、政府の市場に対する干渉が横行し、マーケットの主体となる民間のプレーヤーが伸び伸びと活動できていないのが気になります。製造業、サービス業、研究開発、インターネット企業、フィンテック、文化芸術などを含めてです。習近平一強政治の弊害だといえます。

 この意味で、中国経済がイノベーションに立脚する形で、持続的に成長していけるか否かは、共産党が「創新」を国家戦略の次元で重視しつつも、必要以上に干渉、介入しないこと、あらゆる規制緩和や市場主導を通じて、タレントぞろいの中国の人材に伸び伸びと、生き生きと、市場の論理で、日々の仕事に打ち込んでもらうことに懸かっているように思います。