デカップリングは米国自身の首を締める可能性

 また、経済活動別のデータを分析すると、製造業の2019年GDP(国内総生産)では、中国は米国よりも71%も規模が大きいのです。

 中国国家統計局の報道官が1月の記者会見で明らかにしたデータによれば、中国は2020年、220余りの種類の工業製品の生産量で世界第1位となり、製造業の付加価値額(推計値)では11年連続で世界第1位となりました。産業体系はフルセット型で、国際標準分類すべてを自国で製造できるのは現在、中国だけです。貿易総額(輸出、輸入の合計)では世界第1位、120余りの国家地域が中国を最大の貿易相手国としています。

 バイデン政権は米中デカップリング(分断)を進める方針を固めているようですが、こうした現状から判断すると、中国をグローバルなバリューチェーンから無理やり引き離すことは非常に困難だと思われます。特に米国で広く流通する製品に関していえば、中国との間でしっかりとしたすみ分けができていたり、分業体制が出来上がっていたりするものがほとんどです。分業体制では、中国が川上側を、米国が川下側を担当し、両国の企業がうまく強みを生かし、最終製品を作り上げているといったイメージです。

 2020年における中国の自動車生産台数は2,523万台で、米国は882万台にとどまりました。中国の自動車生産台数は米国の2.9倍の規模です。昨年はコロナ禍の影響で各国ともに生産台数は大きく減少、米国では19%減となりました。しかし、中国では新型コロナウイルスの感染拡大を早々に封じ込めることに成功、迅速な自動車販売促進政策の発動もあって、2%減にとどまっています。

テスラを支えた中国の生産力

 グローバルな視点から見て、主力銘柄の中で、昨年最も株価上昇率の高かった銘柄を一つ挙げるとすれば、テスラがまず頭に浮かぶのではないでしょうか。

 テスラが長らく課題であり続けた量産化を実現できたのは、独資企業として初めて中国(上海)に生産拠点(ギガファクトリー)を持つことができたからです。アナリストたちが極めて楽観的な業績見通しを立てられたのは、巨大市場中国で強固な足場を作り、短期間で大きな実績を上げることができたからです。

 米国企業にとって中国市場は正に宝の山なのです。

 中国市場に足場を築き、戦略市場としているのは、テスラだけではありません。GMだって同じです。デカップリングを進めるということは、米国企業が中国市場を失いかねないということです。もし、台湾で有事などが起きたとしたら、アップルの生産が壊滅的な影響を受けるだけでは済みません。グローバルで電子産業の生産がストップするような事態になりかねません。

 そのほか、金融面でも米中は複雑に資金が入り乱れています。米国は本気で中国とのデカップリングなど進められないということです。

≫後編へ続く「バフェットも資本参加!中国新エネ自動車関連セクターが熱い!」

田代尚機(たしろ・なおき)
中国経済エコノミスト、中国株アナリスト。
大和総研勤務当時、1994年から2003年にかけて代表として中国・北京に駐在。その後、内藤証券を経て独立、TS・チャイナ・リサーチを設立。リサーチのほか運用助言も行った後、2020年10月、事業を譲渡。現在は、フリーランスとしてマスコミ、金融機関などに情報提供を行う。投資メディア「トレード・トレード」でブログ「中国株なら俺に聞け!!」、「マネーポストWEB」で「田代尚機のチャイナ・リサーチ」などを連載中。