老後の生活に必要なものを手に入れるには経済成長が必要

 年金制度は、お金ではなく財・サービスに着目すると、老後の生活に必要な食料や衣服、住居、医療などの消費を補助する制度という解釈ができます。老後の生活に必要な財・サービスは何かというのは難しい問題で、実際に何がどのぐらい必要かはその人次第という雰囲気があります(年金2,000万円問題の数字の多寡を巡る議論がまさにそうです)。

 政策を考える上では心許ないですが、統計上の制約が大きいためやむを得ないという事情があります。

 例えば、世帯の収入・支出、貯蓄・負債を毎月調査する家計調査は、病院や療養所などに入院している世帯は調査対象ではありません。そのため、調査に協力している高齢者は、比較的健康な方に偏っていますので、老後いくら必要か計算するには、入院費用や介護施設費用などを別途、勘案する必要があります。

 また、年金額の改定には消費者物価指数が用いられますが、現役世代を含めた平均的な世帯と高齢者世帯とでは支出する財・サービスのウエイトが異なるので、消費者物価指数を用いると年金額が過大あるいは過少になる可能性があります。

 一例ですが、教育費が下がっても(あるいは制度により無償化されても)、子供の教育を終えた高齢者世帯には恩恵がないうえ、消費者物価指数が押し下げられることで、年金額の伸びが抑制されることになります。

 高齢者世帯に必要な財・サービスを測定し、その物価変動を計算するためには、高齢者世帯を対象にした消費者物価指数を作成すれば良いのですが、予算・人材不足の中、既存統計の立て直しに追われているのが統計部署の現状なので、当分の間は専門家の研究課題に留まりそうです。