企業は儲かっているのに、賃金が増えないのはなぜ?

 より本質的な問題としては、そもそも賃金が伸びないことです。2012年11月を底にして始まった今回の景気回復局面では、企業収益の増加に比べて賃金の増加が伸び悩んでいることが指摘されてきました。

 様々な説が唱えられていますが、終身雇用・年功序列の雇用慣行では、長く勤めるほど賃金が上がり、退職金も増えるので、賃金に多少の不満があっても会社の存続を優先させた方が合理的です。次の景気後退に備えて、従業員・組合側が賃上げ要求に慎重になったとする説です。業績が良くても、労働分配率が低下すれば、賃金は伸び悩みます。

 内部留保の積み上がりは企業の慎重なスタンスを反映しているとも考えられます。設備投資を抑えると、労働者一人当たりの資本装備率が増加しないので、労働生産性は伸び悩みます。研究開発投資を抑制すると、技術進歩が起こらずTFP(全要素生産性)が伸びません。

出所:厚生労働省「2019年(令和元年)財政検証結果」より転載

 TFP上昇率の推移を見ると、すう勢的に鈍化しているようで気がかりです。TFPは労働者の質(生産性)が上がることでも上昇しますが、企業は従業員の研修費用を抑えていますし、非正規労働者は十分なOJTを受ける機会が少ないので、財政検証のケースⅠ~Ⅲ(成長実現ケース)が仮定するTFP上昇率1.3~0.9%を達成するには、社会人への教育投資の後押しが必要でしょう。