賃金が伸びないと、年金額は増やせない

 2019年度の年金額改定に用いられた物価変動率は1.0%、賃金変動率0.6%でした。賃金変動率が物価変動率よりも低かったので、既裁定者の年金受給額の改定率は、賃金変動率0.6%からマクロ経済スライドによるスライド調整率(▲0.2%)と前年度までのマクロ経済スライドの未調整分(▲0.3%)が反映されて、改定率は0.1%になりました。

 賃金変動率が1.0%を上回っていれば、改定率は物価変動率を基準にして0.5%(1.0%-0.2%-0.3%)だったので、実際の値と比較して0.4%の差が生じたことになります。賦課方式はインフレ耐性があるとはいえ、賃金が伸びないことには、年金制度を維持するために年金額は低く抑えられてしまいます。

 長期で考えた場合、賃金変動率が物価変動率を下回り続けることは考えにくいのですが(さもないと、実質所得が減ってどんどん貧しくなります)、様々な理由から今後も実質賃金が減少する局面はありそうです。

 テクニカルな理由としては、賃金変動率の算定方法の問題があります。賃金変動率は標準報酬の平均額を基に算定されています。最上位等級の報酬月額60万5,000円を超えている人の賃金がどれだけ増えても、算定上の標準報酬は変わらないため、賃金変動率は上昇しません。

 極端な例ですが、高給取りの給料ばかりが増えて、他の人の給料が増えない場合、企業が支払う給料の総額は増えても、年金額の改定に用いられる賃金は増加しないという事態が生じます。

 また、働き方の多様化で副業・複業が注目されていますが、副収入が標準報酬に算定されないことで、賃金変動率が抑制される可能性があります。例えば、1,000万円の給料がある場合と、700万円の給料と副業で400万円の収入がある場合では、後者の方が年収は多いのに標準報酬は低くなります。

 こうした問題への対応はまだ本格化していませんが、厚生年金保険料の改定や税務データの利用など実現には時間がかかるため、早めに取り組むべきだと思います。