2.メモリ市況:NAND大口価格が上昇に転じた

 メモリ市況にも変化が現れてきました。

 NAND市況は2018年3月から下がりっぱなしの状態でしたが、ようやく底打ちしたもようです。日経産業新聞の主要相場欄によれば、8月27日のNAND大口価格は、128ギガビットが1.75~2.15ドル/個、64ギガビットが1.55~2.35ドル/個となり、おのおの前週の1.70~2.10ドル/個、1.50~2.30ドル/個から小幅ですが上昇しました。今後の動きを見守る必要はありますが、NAND市況の底打ちはNAND向け設備投資再開の重要な条件です。

 DRAM大口価格はまだ下落基調にあると思われます。DRAMスポット価格は7月に入り日本の対韓国輸出審査厳格化による韓国半導体生産の停滞を懸念して、20%以上上昇しましたが、8月に入ると軟化しています。NANDは全メーカーが赤字になっていると思われるため、設備投資の大幅削減や減産へのインセンティブが大きかったですが、DRAMはまだ利益がでていると思われるため、NANDほど需給が改善していない可能性があります。

 ただしDRAMについては、韓国メーカーのサムスンとSKハイニックスが市場シェアの70%以上を占めているため、日本の対韓国輸出審査厳格化が生産と市況に影響する可能性があります。後述のように、8月28日から日本は韓国をグループA(旧ホワイト国)からグループBに指定替えを行い、輸出審査の厳格化をほぼ全品目に拡大しました。今後はこの指定替えが韓国の半導体生産と半導体市況に与える影響を注視したいと思います。

グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ5 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ6 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金
出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成
注:2018年6月29日までは4ギガビットDDR3型、それ以降は同DDR4型

3.半導体製造装置販売高の動き:北米製半導体製造装置販売額は大底圏か

 半導体製造装置販売高の動きにも変化が現れてきました。日本製半導体製造装置販売高は前年割れが続いていますが、底打ちの気配もやや出てきています。また、日本よりも早く悪化した北米製半導体製造装置販売高は、下降が一旦止まり、横ばい圏に入っています(表5)。ロジック向け設備投資の増加が寄与していると思われます。

 今後メモリ向け設備投資が再開されると、北米製半導体製造装置販売高から回復し、次いで日本製が回復すると予想されます。ただし、仮に2019年10-12月期にメモリ前工程の発注が再開されたとしても、納期が約6カ月なので売り上げとなって業績に反映されるのは2020年4-6月期になってからです。従って、前工程メーカー(東京エレクトロン、SCREENホールディングス)の業績が本格的に回復するのは来期2021年3月期に入ってからになると思われます。

 一方で、後工程(テスタ、ダイサなど)は受注または引き合いから納入までが3~4カ月になります。そのため、2020年3月期4Q(2020年1-3月期)に後工程各社(アドバンテスト、ディスコ)の業績回復が数字に表れる可能性があります。

表5 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

4.日本の対韓国輸出審査厳格化の効果は?

1)日本政府による対韓国輸出審査の厳格化が発動されて2カ月が経った

 2019年7月5日付楽天証券投資WEEKLY「 特集:米中貿易摩擦、日韓摩擦と電子部品、半導体製造装置セクター」でレポートしたように、7月1日付けで日本政府は半導体製造などで使われる化学品3品目(EUV用レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド)について、韓国向けの輸出手続きを厳格化すると発表し、7月4日から実施されました。

 また8月28日から、韓国に対する安全保障上の友好国(従来の「ホワイト国」)の指定も取り消し、グループAからグループBに指定替えしました。これによって日本から韓国へ向けたほとんどの輸出品目について、軍事転用の可能性があるとされた物品については、原則として輸出契約ごとに経済産業省の許可が必要になり、手続きが煩雑になります。ただし、日本企業が厳格な輸出管理を行うなどの要件を満たせば、包括契約による輸出も可能になります(特別一般包括許可など。ただし審査は厳しいと言われています)。

 ちなみに、台湾、中国はホワイト国ではありませんが(台湾、中国はグループCになる)、輸出品の管理に問題がないため、例えばシリコンウェハやフッ化水素などの半導体関連素材は、包括契約によって支障なく日本から輸出されています。

2)輸出審査厳格化の効果

 今回の輸出審査厳格化の目指すところは、日本や同盟国の安全保障を脅かす恐れのある不正な輸出をなくすことです。逆に言えば、通常の企業活動に使う製品、材料の輸出は問題ありません。実際に、日本から韓国企業向けのEUV用レジストの輸出は短期間で認められました。

 日本から韓国向けのフッ化水素の輸出許可についても、報道によれば一部は下りたもようです。ただし、過去数年間のフッ化水素の対韓国輸出において、流通経路がはっきりせず、第3国への輸出が疑われる事例があったもようなので、全ての輸出申請が認められるかどうかは不透明です。

 8月28日以降は、対韓国輸出で審査が必要な品目数が大幅に増えると思われます。そのため、重要物資の中には輸出に時間がかかるものが出てくると思われます。

 今後、韓国では半導体のような先端産業の生産活動にも悪影響が出てくる可能性があります。日本からの半導体材料の入手が従来のように柔軟にできなくなるだけでなく、例えば何らかの疑念があって特定の工作機械や特定の素材の対韓国輸出が差し止められた場合には、半導体工場に使う各種部品の韓国国内からの入手が困難になる可能性もあるのです。実際に韓国半導体メーカーの生産活動に影響が出るのであれば、半導体市況に影響(よい影響)が出ると思われます。

 韓国企業がこのような状況を変えることが出来ないのであれば、生産地を韓国から他の国へ分散することも検討する必要があると思われます。韓国の半導体メーカーにとって安全な国は、中国(サムスン、SKハイニックスともに中国工場を増強中)、台湾、アメリカになります。日本も安全ですが、東芝メモリとマイクロンが増産投資を行っているため、人手不足問題があります。

 韓国メーカーが生産地を韓国以外の国に求めようとする時には、新たな投資が始まると思われます。このような動きが今後数年の間に起こるかどうか、注目したいと思います。

5.半導体製造装置各社の業績動向と目標株価

東京エレクトロン

 業績の詳細は楽天証券投資WEEKLY2019年8月2日号を参照してください。業績は今が底と思われます。今下期から緩やかに業績回復に向かい、来期2021年3月期には本格的な業績回復が期待できます。

 今後6~12カ月間の目標株価は2万6,000円を維持します。投資妙味を感じます。

表6 東京エレクトロンの業績

株価    18,680円(2019/8/29)
発行済み株数    161,060千株
時価総額    3,008,601百万円(2019/8/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

アドバンテスト

 業績の詳細は、楽天証券投資WEEKLY2019年7月26日号を参照してください。今1Qの業績は伸びはありませんでしたが、高水準でした。5G用半導体向けテスタの増加が寄与しました。今2Q以降も5G用半導体の重要性は変わらないため、高水準の業績が続くと思われます。会社予想は上方修正の可能性があります。

 来期は最新の高速DRAM「DDR5」が本格的に出荷されると予想されます。そして、このDDR5がテスタ需要を刺激すると思われます。現状の最速DRAM「DDR4」のテストに使ったメモリ・テスタはテストスピードが遅くてDDR5には使えないと言われています。そのため、来期は5G用SoCテスタの高水準の需要に、DDR5の出荷開始を契機としたメモリ・テスタの増強・入れ替え需要が加わる可能性があります。そのため、来期も業績好調が予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価は、6,000円を維持します。投資妙味を感じます。

表7 アドバンテストの業績

株価    4,180円(2019/8/29)
発行済み株数    197,930千株
時価総額    827,347百万円(2019/8/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。

レーザーテック

 業績の詳細は、楽天証券投資WEEKLY2019年8月16日号を参照してください。

 レーザーテックの売上高の約90%がロジック半導体向けであり、最先端のロジック半導体向けマスク検査装置で高いシェアを有しています。前期2019年6月期から最新鋭のEUVマスク欠陥検査装置の出荷が開始されましたが、これが5ナノ、3ナノ時代のレーザーテックの成長の柱となると思われます。このため、今期、来期と好業績が続くと予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価は、7,800円を維持します。投資妙味を感じます。

表8 レーザーテックの業績

株価    5,890円(2019/8/29)
発行済み株数    45,089千株
時価総額    265,574百万円(2019/8/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。