大間違いその7:投資家のタイプで、投信を選ぶ

「お金の増やし方」は「(増やした)お金の使い途」とは別に、独立に決めることができる。また、少なくともお金そのものは、様々な目的に使えるし、使い方は「後から」決めることができる。また、運用金額が変化しても、同じ内容に投資すると、同じリターンを得ることができるスケールの自由度もお金にはある。

(図5)

 また、もう一歩進めて考えるなら、運用にいちいち「目的」を設定することの妥当性が怪しいのではないか。例えば、「将来のインフレに負けないことが運用目標です」という人は、FPや金融機関のセールスマンを含めて少なくないと思われるが、そう言う人に次のように問うてみたい。

「お金がインフレ率以上に増えたら、何か困ることがありますか?」

 近年、米国のリテール金融の世界では「ゴールベースド・アプローチ」と呼ばれるセールス法が普及している。顧客の人生の目標を聞き出して、これを実現するためにと称して運用サービスを提供する(提供形態は主にラップだ)、やや富裕層向けのビジネス形態だ。顧客からすると、金融マンが自分や家族の人生にまとわりついてくるのだから、気持ちが悪くないかと心配なのだが、これが心地よい人もいるのだろう。米国の証券会社では、成果が上がっているようだ。

 わが国でも、多くの雑誌、新聞などのマネー運用特集では、初心者かベテランか、若者か高齢者か、といった「投資家のタイプ別」に異なる運用内容(特に運用商品が)を勧める構成になっているが、これは怪しくないか。

 例えば、「リスク当たりの期待リターンの効率が最もいい組み合わせ」が仮に一通りに決まるとすると、初心者でも、ベテランでも、大金持ちでも、そうでない人でも、「リスク資産の組み合わせ」に投じる金額によって取るべきリスクの大きさが変わるとしても、リスク資産の内容は同じものになっていいはずだ。

「個々の投資家のタイプ別に、ピッタリの運用商品は異なります」「運用の(あるいは「人生の」)目的をしっかり定めて運用を考えましょう」といった、疑わなければ耳当たりのいい話は、「ろくでもない商品を売るための、セールスの話法なのではないか?」と疑った方がいい。

「投資家のタイプ」と「運用の目的」を口にするセールスマンなり、アドバイザーなりは怪しい! 少なくとも、「経済的警戒心」をもって接するべきだし、できたら近づかないことだ。

 もう一度繰り返すが、個人が自分の意思と費用の下に好きな投信を買うのは自由だ。しかし、個人にアドバイスする次元では、「正しいこと」を伝えるべきだろう。

 そして、合理的な個人にとって、運用はシンプルでいい。内外の株式のインデックスファンドを1本ずつと、個人向け国債の変動金利10年型の3つだけ知っていれば、それで用が足りる。運用で細々悩まずに、人生を楽しんでほしい。