※本記事は2016年4月22日に公開したものです。

はじめに「7つ」ありき

 表題は、以前、楽天ファンド・アワードの表彰式で筆者が講演したタイトルだ。良いファンドを表彰する場で、投信利用の「大間違い!」について話すというのは、場違いではないかと筆者も思ったのだが、弊社の担当者が『週刊現代』のような過激なタイトルを付けてください、と言うので思いついたものの一つだ。

「7つ」という数はその場の思いつきで、テーマは後から探したのだが、結果的には、投資家が個人の資産運用を考えるにあたって大事なことを、ほどよく盛り込むことができた。自分で言うのは気が引けるが、投資の基本に関わる意外に真面目な内容をお話しした。

 ちなみに、『週刊現代』と現在の投資運用業界には似た点が一つある。『週刊現代』はやや高齢の男性読者が多い雑誌だが、近年、グラビアページには20年、30年前のアイドル・タレントの写真が増えている。実は、近年、「フィンテック」などと称して売られている投資系のサービスや「スマートベータ」といった運用商品は、内容的には1980年代くらいに普及したクオンツ運用の焼き直しなのだ。筆者の頭の中では「フィンテック」と『週刊現代』はイメージが重なるのである。

 本稿では、表彰式当日にお話しした内容をご紹介する。

大間違いその1:「銀行の窓口で投信を買う」

 筆者は、銀行の窓口で投資信託を売ることに反対ではないが、現在、銀行の窓口にラインナップされている投資信託を買うことは全くお勧めできない。率直に言って、手数料が高すぎて、それだけで「買えない」ものばかりが並んでいるからだ。

 かつてはリスクの説明ばかりして売る気がないと言われた銀行員の投信販売であったが、今では、対面営業型の証券会社と変わらない強引で積極的なものに変わった。加えて、銀行は、預金口座のお金の動きを通じて顧客の懐事情を証券会社以上によく知っており(たとえば退職金が振り込まれるとすぐに電話が掛かってくる)、個人にとって手強い相手である。

 たとえば無料相談であっても、銀行員と話をすることは危険だ。彼らが繰り出すご提案をその場で、素人が否定するのはなかなか難しいからだ。この辺りの事情は、拙著『信じていいのか銀行員』(講談社現代新書)に書いた通りだ。

 そして、現在、銀行では、マイナス金利政策の影響で貸出と証券運用共に利回りが下がり、資金利ざやが縮小している。彼らは、現在、預金を集めることよりも投資信託を売って手数料を稼ぐことに注力するものと思われる。銀行窓口で買ってはいけない商品には投資信託だけでなく、一時払いの生命保険商品なども含まれるが、マイナス金利政策の一番の弊害は、銀行が手数料稼ぎに本腰を入れることではないかと、筆者は懸念している。

大間違いその2:運用期間でリスクを決める

 運用でどれだけ大きなリスクを取っていいかを決める主な要因は、個人でも企業年金のような機関投資家でも、「運用期間の長さ」ではなく、「財務的な強さ」だ。

 若い人が運用する金融資産の中で株式などのリスクを取る資産の割合を大きくしていい「傾向」があるのは、若くて健康な方はこれから長年稼ぐことが予期できるので「人的資本」が手厚いことと、そもそも金融資産の額が小さい場合が多いことの2点が主な理由だ。

 一部で信じられている「運用期間が長くなると、リスクが縮小するから」という理由は、その説明自体が間違いだ。運用期間が長期化するほど、運用資産額が取り得る上下の値の範囲は拡大する。

 もちろん、期待される平均額もリターンがプラスなら時間と共に増えていくと考えられるから、運用期間が長期化した場合に、リスクが拡大するから、リスク資産への配分を減らす方がいいということではない。リターンの現れ方がランダムで、投資家のリスクに対する拒否度が一定であれば、運用期間の長短はリスク資産への配分に対して中立である。

 しかし、運用期間によってリスクの大きさが変わるべきだと書いている運用の入門書は世の中に多いし、ロボアドバイザーを標榜する資産運用アドバイスのエンジンには、運用期間によってリスク拒否度を操作していると思しきものがある。

 運用期間の長さをリスク許容度に相関させて大失敗した例としては、1990年代から2000年代前半にかけての、日本の企業年金がある。多くの厚生年金基金が、「御基金はまだ成熟度が低いので、リスクを取ることができます」という運用会社のセールスに乗せられて、過大なリスクを取って苦境に陥った。正しくは、基金の財政状態と母体企業の財務的強さこそが、リスク許容度の決定要因だったのだ。

 では、個人投資家は、リスクをどのように考えたらいいか。一つのヒントとして、本講演では、「360」(65歳から95歳までの月数)で資産の増減額を割り算し、たとえば360万円損をした場合に、「老後に取り崩すことができるお金が月に1万円減った」と考えるやり方を紹介している(図1参照)。

(図1)

 ストックの損得を、老後の毎月のお金というフローに換算して、実感を想像しやすくしてみた。

大間違いその3:分配金を目当てに、投信を買う

 ダメなロボアドバイザーでは、投資家がインカム収入をどの程度重視するかを訊くものがあるし、運用の解説書でも、例えば「55歳までには定年後に備えた生活設計に取りかかり、利子・配当を中心にしたポートフォリオに切り替えるべきだ」(バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』井手正介訳、日本経済新聞出版社刊行。大変良い本なのだが、この部分は11版になっても直っていない)などと書かれている場合がある。

 分配金が大きいと、運用資産が複利で増えにくいし、税金面でも損なので、運用アドバイスとしては「分配金にこだわって運用商品を選ぶことは不適切です」と投資家に教えて上げることだ。加えて言うなら、分配金が大きい投資信託は手数料が高すぎるものがほとんどで、「買っていいもの」が見当たらないということもある。

 特に、日本の場合、高齢者が、分配金にこだわると手数料の高い不適切なファンドのセールスに引っ掛かりやすくなるといった問題がある。

 長寿命の日本人の場合、50代、60代はまだまだ元気で今後の運用期間もたっぷりあるので、「高齢者=インカム指向」という先入観は有害だ。ポートフォリオにまで歳を取らせる必要はない。

大間違いその4:DCやNISAでバランスファンドを買う

 DC(確定拠出年金)やNISAは、税制面で有利にお金を増やすことができる仕組みだが、これらの利用方法は、(1)自分の資産のトータルで運用計画を考えて、(2)その中の最も適した(概ね期待リターンが高い)資産をDC、NISAなどに「割り当てる」と考えるべきだ。問題の構造は、年金基金が運用会社を組み合わせる「マネージャー・ストラクチャー」と呼ぶ作業と同じだ。

 リスク資産への投資額が、DCやNISAよりも十分大きな投資家の場合、DCやNISAには「債券+株式」のようなバランスファンドを入れてしまうと、運用益が非課税であることのメリットを十分に使い切ることができないので、「もったいない」。

 現状のマーケットの状況と運用商品の状況を踏まえると、図2のような構造で運用することが最適になる場合が多いだろう。DCには外国株式のインデックスファンド、NISAにはTOPIX連動型のETF(上場投資信託)が最適になる場合が多いはずだ。

 ETFが利用できないことは、NISA口座を銀行に持つべきでないことの理由の一つでもある。

(図2)

大間違いその5:高い手数料の投信を買う

 大袈裟に「基本原理」というほどのものではないが、運用商品のリターンは図3のように分解できる。例えば、「国内株式」に投資する投信の場合、株式市場のリターンは「共通」、運用スキルによるアクティブリターンは「事前には評価不能」、で実質的な手数料の差が「確実な差」になる。

 すなわち、運用商品を評価する場合、手数料の差こそが唯一重要で、投資家が自ら改善できるポイントなのだ。

 ちなみに、(不都合な真実その1)アクティブ運用の平均リターンはインデックス運用に劣る、(不都合な真実その2)相対的に良いリターンをもたらすアクティブ運用を事前に識別する方法はない、というアクティブ運用の2つの不都合な真実の論理的な帰結は、「(少なくとも手数料が高い限り)アクティブ運用の投信を買うことは経済合理的ではない」というものだ。

 人が自分の好みのお金を払う「個人的道楽」のレベルでアクティブファンドを買うことは止めないが、専門家としてアクティブファンドを他人にアドバイスする人間は不誠実である、というのが筆者の考えだ(金融界とFP[ファイナンシャル・プランナー]に友達が減るが仕方がない)。

(図3)

 個人投資家としては、株価が上がるか・下がるか、為替が円安か円高か、といった「市場リターンの予想」と「実質的手数料による運用商品評価」とを混同しないことが肝心だ。運用商品の評価は、市場リターンに対する評価と独立に行うことができる。

 立場を変えて考えると、手数料が割高な「不良商品」を販売するために、金融機関側は、顧客の注意を市場リターンや運用スキルに誘導することが重要なテクニックとなる。

大間違いその6:対面営業型証券のラップ口座で投信を買う

 対面営業型の証券会社、銀行(系列の証券、信託を通じてサービスを提供する)などがラップ口座の営業に力を入れているのは、ズバリ、投信の乗り換え勧誘に対して金融庁が厳しくなったからだろう。顧客のお金をラップに囲い込んで、「手数料稼ぎのための回転売買はしていません」という体裁を作りつつ、たっぷり手数料を取る。

 ラップの「正邪」を見分ける分かりやすい方法がある。例えば、国内株式の組み入れファンドを見たときに、手数料が最割安のインデックスファンドになっていずに、系列の投信会社が運用するアクティブファンドなどになっている場合、そのラップは、顧客のためというよりは、金融機関のために運用されている。

 そもそも、自分のお金の運用内容を資産配分レベルから他人に「お任せ」にしようとすることが好ましくないが、ラップを考える上で、根本的な「問い」をご提供しよう。

「そのラップ口座は、どのくらいの大きさのリスクを取り、幾ら投じるのが適切か?」がその問いだ。よもや、一つのラップ口座に全財産を投入しようと考える投資家はいまい。だとすると、ラップに預ける金額を決めなければならないが、リスクの大きさ(本当は内容も)が分からないものに、いくらお金を投じていいのかを決めることはできない。

 ところが、自分でそれを決められるくらいなら、ラップ口座に別途手数料を払ってまで他人に運用してもらう必要はないし、リスクの大きさその他が分からないというのであれば、これに大事なお金を投じるのは問題だろう。

(図4)

大間違いその7:投資家のタイプで、投信を選ぶ

「お金の増やし方」は「(増やした)お金の使い途」とは別に、独立に決めることができる。また、少なくともお金そのものは、様々な目的に使えるし、使い方は「後から」決めることができる。また、運用金額が変化しても、同じ内容に投資すると、同じリターンを得ることができるスケールの自由度もお金にはある。

(図5)

 また、もう一歩進めて考えるなら、運用にいちいち「目的」を設定することの妥当性が怪しいのではないか。例えば、「将来のインフレに負けないことが運用目標です」という人は、FPや金融機関のセールスマンを含めて少なくないと思われるが、そう言う人に次のように問うてみたい。

「お金がインフレ率以上に増えたら、何か困ることがありますか?」

 近年、米国のリテール金融の世界では「ゴールベースド・アプローチ」と呼ばれるセールス法が普及している。顧客の人生の目標を聞き出して、これを実現するためにと称して運用サービスを提供する(提供形態は主にラップだ)、やや富裕層向けのビジネス形態だ。顧客からすると、金融マンが自分や家族の人生にまとわりついてくるのだから、気持ちが悪くないかと心配なのだが、これが心地よい人もいるのだろう。米国の証券会社では、成果が上がっているようだ。

 わが国でも、多くの雑誌、新聞などのマネー運用特集では、初心者かベテランか、若者か高齢者か、といった「投資家のタイプ別」に異なる運用内容(特に運用商品が)を勧める構成になっているが、これは怪しくないか。

 例えば、「リスク当たりの期待リターンの効率が最もいい組み合わせ」が仮に一通りに決まるとすると、初心者でも、ベテランでも、大金持ちでも、そうでない人でも、「リスク資産の組み合わせ」に投じる金額によって取るべきリスクの大きさが変わるとしても、リスク資産の内容は同じものになっていいはずだ。

「個々の投資家のタイプ別に、ピッタリの運用商品は異なります」「運用の(あるいは「人生の」)目的をしっかり定めて運用を考えましょう」といった、疑わなければ耳当たりのいい話は、「ろくでもない商品を売るための、セールスの話法なのではないか?」と疑った方がいい。

「投資家のタイプ」と「運用の目的」を口にするセールスマンなり、アドバイザーなりは怪しい! 少なくとも、「経済的警戒心」をもって接するべきだし、できたら近づかないことだ。

 もう一度繰り返すが、個人が自分の意思と費用の下に好きな投信を買うのは自由だ。しかし、個人にアドバイスする次元では、「正しいこと」を伝えるべきだろう。

 そして、合理的な個人にとって、運用はシンプルでいい。内外の株式のインデックスファンドを1本ずつと、個人向け国債の変動金利10年型の3つだけ知っていれば、それで用が足りる。運用で細々悩まずに、人生を楽しんでほしい。