スターアジアは3.6%の議決権で決議を成立させられるのか

 J-REITの場合、前述のように50%以上の投資口を取得して支配する方法が取れないことから、スターアジアは敵対的買収戦略シナリオを実行してきました。

 そして、投資主総会に議案を提案するためには、1%以上の投資口を6カ月引き続き保有していれば可能です(投信法94条1項)。ちなみに、この規定は株主提案権として、事業会社にも適用されます(会社法303条2項)。スターアジアはこの規定を使って先ほどの(1)から(4)の議案を提案してきたのです。

 次に3%以上の投資口を、6カ月から引き続き保有している投資主は、監督官庁である財務局長の許可を得て、投資主総会の招集を請求することができます(投信法90条3項)。ちなみに、この規定も株主による招集の請求として、事業会社にも適用されます(会社法297条1項、ただし裁判所の許可を得て招集する点が異なる)。

 さらに、次が一番問題となるところです。議案を提案して投資主総会を招集するところまではできそうですが、3.6%の議決権で投資主総会の決議を可決することはできるのでしょうか。

 通常、投資主総会で決議を可決させるためには、普通決議(※)が必要となります(投信法93条の2第1項)。
    ※発行済投資口の過半数の投資口を有する投資主が出席し、出席した当該投資主の議決権の過半数をもって行うこと。

 したがって、3.6%の議決権しか有していないスターアジアは、決議を可決させることはできないようにも思えます。

 しかし、J-REITの場合には会社法が適用される事業会社とは異なり、「みなし賛成」という制度があるのです(投信法93条1項)。

「みなし賛成」とは、投資主が投資主総会に出席せず、かつ議決権を行使しないとき、その投資主総会に提出された議案について、賛成したものとみなしてしまう制度です。つまり投票を棄権した投資主も賛成票にカウントされてしまうことになります。ほとんどの投資法人は規約でこの規定を取り入れています。

 なぜこのような規定があるのでしょうか。それは、J-REIT投資主は議決権行使に興味がないことが多く、棄権が多い投資主総会において、決議を成立させることは困難だからです。

 J-REITは、不動産を仕入れて、テナントに賃貸して賃料収入を得て利益を分配するシンプルな仕組みです。通常の事業会社と異なり、議題はだいたい役員の選任程度で、総会で決める案件もそれほどありません。

 このような特殊な事情があるため、J-REITには「みなし賛成」という制度があるのです。

 ちなみに、私もJ-REIT投資主総会にはほとんど出席したことはありません。投資主の側から見ても、J-REITは分配金目当てで長期保有する前提で投資しているため、分配金さえ、ちゃんともらえれば文句はないからです。

 スターアジアは、こういった事情から、みなし賛成の制度を使うことにより、棄権票を賛成票にカウントし、過半数の決議を得ることが可能となるのです。

さくらの防衛策

 では、対するさくらの防衛策はどうでしょうか? 

 実はみなし賛成の制度には例外があります。相反する趣旨の議案が提出されている場合、同制度は適用されないのです(投信法93条1項かっこ書き)。

 そこで、さくらは友好的な投資法人みらい(以下、みらい)に働きかけ、みらいに吸収合併してもらう方法を選択しました。みらいがホワイトナイト(敵対的買収を受ける企業にとって友好的な第三者)として登場してきたわけです。

 さくらはみらいの後ろ盾を得て、スターアジア提出の議案に、相反する趣旨の議案を提出します(みらい出身の役員の選任など)。

 こうするとみなし賛成の制度が適用されなくなるので、スターアジア側とさくら側の委任状の争奪戦(プロキシーファイト)となるのです。現に投資主である私のところにも「委任状を書いてください」と手紙が来ました。

 今後はスターアジアとさくらとの間の委任状争奪戦により、帰趨(きすう)が決せられることになります。

 このようにJ-REITは通常の事業会社とその仕組みや法規制が異なることから、敵対的買収を含むM&A(企業買収・合併)のやり方や防衛策も事業会社とは大きく異なります。

 ちなみに、この敵対的買収事件で、関係各リート投資法人の投資口価格が高騰したので、売却して利益を得た投資主もいたようですが、それはまた別の機会にでも…。