弁護士も注目!J-REITの高利回り

 個人投資家の皆さんの中にはJ-REIT(ジェイリート)を買われている方もいらっしゃると思います。J-REITは日本版上場不動産投資信託のことで、投資家から集めた資金でオフィスビル、商業施設、マンション、ホテルなどを購入してテナントに賃貸し、その賃料収入や売買利益を投資家に分配する金融商品です。

 J-REITは個別株とは異なり、基本的に株主優待もなく非常に地味な金融商品なので、若い投資家に人気がなく、割と高齢の投資家が買っている印象があります。

 しかしながら、J-REITは分配金利回りが高いという特徴があります。J-REITの利回りはおおむね3~6%なので、個別株と比較してもかなり高利回りなのが分かると思います。ちなみに私も個別株の他に、J-REITにも投資しています。

 J-REITといえば、最近、スターアジア不動産投資法人の運用会社(以下、スターアジア)がさくら総合リート投資法人(以下、さくら)に対して、敵対的買収を仕掛けるという事態が発生しました。

 そこで、J-REITに詳しい私が「J-REIT弁護士」として、今回のJ-REITの敵対的買収について、事業会社と比較しながら解説していきます。

 なお、スターアジアのさくらに対する敵対的買収の是非についてはここでは論じません。あくまで法制度面から解説します。

スターアジアの取った敵対的買収戦略のシナリオ

 以前、スターアジアはさくらに対し、一方的な合併提案をしましたが、さくら側はこれを拒否しました。

 そこでスターアジアは、さくらの発行する全体の3.6%まで投資口(株式に相当)を取得し、2019年5月、さくらに対し4つの議案を提案して、臨時投資主総会の開催を請求しました。

 スターアジアが示した4つの議案は、次のとおりです。

(1)現執行役員の解任
(2)新執行役員の選任(注:当然スターアジア不動産投資法人が送り込む執行役員です)
(3)さくら不動産投資顧問との資産運用委託契約解除
(4)スターアジア投資顧問との資産運用委託契約締結

 スターアジアのシナリオ通りに進めば、さくら側の執行役員、運用会社を排除し、スターアジア側の執行役員、運用会社に交代させることで、さくらをスターアジアの支配下に。その後、双方の投資法人間において合併契約の締結、双方の投資主総会で合併契約の承認があれば、スターアジアがさくらを吸収合併できることになります。

スターアジアによる敵対的買収戦略の法的問題

なぜスターアジアはもっと多くの投資口を取得しなかったのか

 敵対的買収を行うのであれば、スターアジアは手っ取り早くTOB(株式公開買い付け)を仕掛けるなどして、さくらの投資口を50%以上取得してしまえばよいのではないかと考える方も多いでしょう。しかし、J-REITの場合、TOBができない事情があります。法人税の制度によるものです。

 J-REITが高分配金を維持できる要因の一つに、法人税算出の際、分配金を損金に算入できることが挙げられます。一定の要件を満たすと、分配金の損金算入によって法人税が減免されるため、高分配金が維持できるというわけなのです(租税特別措置法67条の15第1項)。

 この一定要件は、次のとおりです。

・配当可能利益の90%超を配当していること(支払配当要件)
・他社株式の50%以上を保有していないこと(会社支配禁止要件)
・筆頭株主の投資口保有比率が50%以下であること(非同族会社要件)

 TOBによって、スターアジアがさくらの投資口を50%以上取得してしまうと、スターアジアは法人税減免されず、高分配金を維持できなくなります。また、さくらも同様に要件を喪失し、法人税は減免されません。こうなると両方の投資法人、ひいては投資主にとってマイナスです。

 このため、J-REITの場合はTOB(株式公開買い付け)という方法は取れないということになります。これは通常の事業会社と違う点です。

スターアジアは3.6%の議決権で決議を成立させられるのか

 J-REITの場合、前述のように50%以上の投資口を取得して支配する方法が取れないことから、スターアジアは敵対的買収戦略シナリオを実行してきました。

 そして、投資主総会に議案を提案するためには、1%以上の投資口を6カ月引き続き保有していれば可能です(投信法94条1項)。ちなみに、この規定は株主提案権として、事業会社にも適用されます(会社法303条2項)。スターアジアはこの規定を使って先ほどの(1)から(4)の議案を提案してきたのです。

 次に3%以上の投資口を、6カ月から引き続き保有している投資主は、監督官庁である財務局長の許可を得て、投資主総会の招集を請求することができます(投信法90条3項)。ちなみに、この規定も株主による招集の請求として、事業会社にも適用されます(会社法297条1項、ただし裁判所の許可を得て招集する点が異なる)。

 さらに、次が一番問題となるところです。議案を提案して投資主総会を招集するところまではできそうですが、3.6%の議決権で投資主総会の決議を可決することはできるのでしょうか。

 通常、投資主総会で決議を可決させるためには、普通決議(※)が必要となります(投信法93条の2第1項)。
    ※発行済投資口の過半数の投資口を有する投資主が出席し、出席した当該投資主の議決権の過半数をもって行うこと。

 したがって、3.6%の議決権しか有していないスターアジアは、決議を可決させることはできないようにも思えます。

 しかし、J-REITの場合には会社法が適用される事業会社とは異なり、「みなし賛成」という制度があるのです(投信法93条1項)。

「みなし賛成」とは、投資主が投資主総会に出席せず、かつ議決権を行使しないとき、その投資主総会に提出された議案について、賛成したものとみなしてしまう制度です。つまり投票を棄権した投資主も賛成票にカウントされてしまうことになります。ほとんどの投資法人は規約でこの規定を取り入れています。

 なぜこのような規定があるのでしょうか。それは、J-REIT投資主は議決権行使に興味がないことが多く、棄権が多い投資主総会において、決議を成立させることは困難だからです。

 J-REITは、不動産を仕入れて、テナントに賃貸して賃料収入を得て利益を分配するシンプルな仕組みです。通常の事業会社と異なり、議題はだいたい役員の選任程度で、総会で決める案件もそれほどありません。

 このような特殊な事情があるため、J-REITには「みなし賛成」という制度があるのです。

 ちなみに、私もJ-REIT投資主総会にはほとんど出席したことはありません。投資主の側から見ても、J-REITは分配金目当てで長期保有する前提で投資しているため、分配金さえ、ちゃんともらえれば文句はないからです。

 スターアジアは、こういった事情から、みなし賛成の制度を使うことにより、棄権票を賛成票にカウントし、過半数の決議を得ることが可能となるのです。

さくらの防衛策

 では、対するさくらの防衛策はどうでしょうか? 

 実はみなし賛成の制度には例外があります。相反する趣旨の議案が提出されている場合、同制度は適用されないのです(投信法93条1項かっこ書き)。

 そこで、さくらは友好的な投資法人みらい(以下、みらい)に働きかけ、みらいに吸収合併してもらう方法を選択しました。みらいがホワイトナイト(敵対的買収を受ける企業にとって友好的な第三者)として登場してきたわけです。

 さくらはみらいの後ろ盾を得て、スターアジア提出の議案に、相反する趣旨の議案を提出します(みらい出身の役員の選任など)。

 こうするとみなし賛成の制度が適用されなくなるので、スターアジア側とさくら側の委任状の争奪戦(プロキシーファイト)となるのです。現に投資主である私のところにも「委任状を書いてください」と手紙が来ました。

 今後はスターアジアとさくらとの間の委任状争奪戦により、帰趨(きすう)が決せられることになります。

 このようにJ-REITは通常の事業会社とその仕組みや法規制が異なることから、敵対的買収を含むM&A(企業買収・合併)のやり方や防衛策も事業会社とは大きく異なります。

 ちなみに、この敵対的買収事件で、関係各リート投資法人の投資口価格が高騰したので、売却して利益を得た投資主もいたようですが、それはまた別の機会にでも…。