パウエル議長は大幅利下げに踏み込んだ発言をするか焦点

 2点目と3点目については、米雇用統計発表後、景気減速懸念が高まり、FRBの9月利下げ幅が0.50%の確率が9割弱となっていました。その後、米小売売上高や直近の米新規失業保険申請件数と失業保険継続受給者数が予想を下回ったことから、景気減速、雇用環境の悪化懸念が後退し、今は3割程度となっています。市場の焦点は、9月0.25%利下げとの見方が大勢で、年内(9月、11月、12月)に複数回の利下げがあるかどうかとなっています。

 しかし、9月の大幅利下げ期待はくすぶっている点には注意が必要です。予想を上回った小売売上高も、6月に米自動車ディーラーの多くがサイバー攻撃を受けた反動による販売増や、アマゾン・ドット・コムのプライムデー、ウォルマートやターゲットの大幅値引きなどの影響によって数字ほど実態が強くない可能性があるとの見方もあります。

 また、今週のドル売り要因の一つになった、米労働省が21日に発表する雇用統計の基準改定値にも注意する必要があります。この改定での2024年3月分までの1年間の雇用者数が大幅に下方修正される可能性(予想30万人減~100万人減)が警戒されています。ちなみに、昨年8月は、50万人程度の下方修正が警戒されていましたが、実際は30.6万人の下方修正でした。

 改定で雇用者数が下方修正されても同期間におけるインフレや個人消費に関するデータが修正されるわけではないそうですが、来年にかけて雇用拡大のペースが減速することが警戒されます。

 直近7月の住宅関連指標や7月景気先行指数も予想を下回りました。パウエル議長は年内利下げを示唆しても、物価安定に注意を払って大幅利下げや複数回の利下げは慎重な言い回しをするかもしれません。

 また、景気動向については後退リスクを意識し、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)後の会見以上にハト派色を強めるとも考えられます。7月のFOMCの声明で二つの責務、物価と雇用の双方のリスクに注意を払っていると変更し、足元の雇用環境に慎重な見方を示したことから、もし、雇用の大幅修正がなされた場合、物価の安定を踏まえて雇用の拡大に軸足を移すような発言がみられるかもしれません。

 このような発言があれば、大幅利下げや複数回の利下げに対する市場の期待が高まることが予想され、再び1ドル=140円方向への円高に進む可能性が出てきます。

 日経平均は今年の下落幅の半値戻しを達成しましたが、ドル/円は達成していません。日銀の利上げ要因が和らいだ中では、FRBの利下げ期待の方が大きいということかもしれません。

 そのため、23日の植田総裁の発言によって円安に振れても、その後のパウエル議長の発言でドル売り(円高)が強くなることも想定されます。

 逆にパウエル議長の発言がFOMC後の会見と同じトーンであれば、期待外れのドル高円安に動くことも予想されるため注意が必要です。今年はジャクソンホール会議のFRB議長講演に加えて、植田総裁が出席する国会の閉会中審査も加わり例年以上に難しい判断となりそうです。