歴史的暴落に見舞われた日本株市場でしたが、先週は「見事!」というほかない一直線のリバウンド上昇に成功しました。
日経平均株価(225種)の8月16日(金)終値は前週末比3,037円(8.7%)高の3万8,062円まで上昇。
7月11日(木)の史上最高値と、前日比で歴代最悪の下げ幅4,451円安に沈んだ8月5日(月)最安値の値幅の半値戻しに相当する3万6,791円を1,000円以上も上回る快進撃でした。
「半値戻しは全値戻し」という相場の格言もあるため、株価が上昇しやすい10月から年末に向けて史上最高値の4万2,224円を目指す展開も視野に入りました。
日本銀行の唐突な利上げに伴う1ドル=141円台突入の円高と、にわかに浮上した米国の景気後退懸念が8月上旬の暴落につながりました。
しかし、先週発表された米物価・景気指標は米国の景気後退や株安不安を打ち消すものでした。
14日(水)発表の7月CPI(消費者物価指数)は前年同月比2.9%の上昇と3年4カ月ぶりに3%を下回りました。
15日(木)には、7月の小売売上高が予想を上回る前月比1.0%の増加で米国の個人消費が依然活況なことが判明。
前週分の新規失業保険申請件数も予想を下回る22.7万件まで減少し、労働市場の悪化がそれほどでもないことが分かると米国株は大きく続伸。
米国経済のソフトランディング(景気軟着陸)期待が再び台頭し、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が9月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%利下げに踏み切ることが有力視されました。
通常の倍の0.5%利下げは、米国の景気後退が相当深刻であることをFRB自身が認めることにつながります。想定内の0.25%利下げなら、日米金利差の縮小が緩やかなため円高がそれほど進まず、日本株にとっては米国株以上に朗報です。
そのため、翌16日(金)の日経平均は前日比1,336円高と、今年2番目に大きな上げ幅を記録。
これほどリバウンド上昇の勢いが強いのは、日本株を安値で買いたい長期投資家が多い証拠。先週は日本株の勢いの強さを実感できる1週間でした。
米国株も機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が前週比3.93%も上昇し、8月上旬の急落を帳消しにしてプラス転換するほど力強く回復。
16日のニューヨーク外国為替市場ではドル/円レートが15日(木)終値の1ドル=149円30銭台から1円70銭近く円高の147円60銭台で終わりました。
週明け19日(月)の日経平均終値は前週末比674円安の3万7,388円でした。午前中は一時上昇に転じるなど下値が堅い展開でしたが、午後の取引では、1ドル=145円台前半を付け円高が加速、下落幅は一時700円を超えました。東京エレクトロン(8035)やファーストリテイリング(9983)が売られました。
今週は21日(水)に前回7月31日(水)に終了した米国のFOMCの議事録が公開。
22日(木)からは米国ワイオミング州で世界各国の中央銀行総裁が金融政策について討論するジャクソンホール会議も始まり、23日(金)にはパウエルFRB議長の講演が予定されています。
日本では、先週14日(水)に支持率低迷にあえぐ岸田文雄首相が9月下旬の自民党総裁選挙に出馬しない意向を表明して、株式市場にも一時動揺が広がりました。
しかし、コロナ対応で不人気だった菅義偉前首相が総裁選不出馬を明らかにした2021年8~9月にかけて、日経平均は2021年7月末比で2,169円(7.95%)も上昇する「自民党総裁選相場」が発生しています。
今後は総裁選相場の再来が株価続伸の起爆剤になるかもしれません。
先週:米国の物価・景気指標好転で円安進み全面高!半導体株が強い!
先週は発表された米国の物価・景気指標の多くが良好な結果だったことが、株価の反転上昇や為替レートの円安回帰に大貢献しました。
今後も円安が続くこと、少なくとも急速な円高に振れないことが日本株続伸の条件になりそうです。
週間の業種別上昇率を見ると、保険業や銀行業といった本来日銀の利上げが収益増につながる金融株、円安が収益の追い風になる輸送用機器や電気機器が全体で10%以上の上昇となるなど、これまで上昇相場の主役だったセクターが真っ先に買い戻されました。
主力の半導体製造装置メーカー・東京エレクトロン(8035)は9日(金)に2025年3月期の通期業績を大幅上方修正したこともあり、前週比12.2%高。
国際的な株価指数への新規採用が決まった半導体成膜装置のKOKUSAI ELECTRIC(6525)が26.9%も上昇するなど、これまで下げのきつかった中型クラスの半導体株の反転上昇が目立ちました。
岸田首相が14日(水)に自民党総裁選不出馬を表明したことで首相交代に対する思惑から、川崎重工業(7012)が20.7%高となるなど防衛関連株や電力会社など原発関連株も買われました。
15日(木)発表の日本の2024年4-6月期の名目GDP(国内総生産)が前期比年率換算で1.8%増となり、初めて600兆円の大台を突破したことも株価上昇の下支え役に。
全面高の中、業種別の上昇率が低調だったのは陸運、建設、繊維、小売、食料品など円安再開による輸入品の価格高止まりが業績を圧迫しそうな内需株でした。
米国ではフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が前週比9.78%も上昇するなど、AI(人工知能)関連の半導体株の反転上昇が鮮明でした。
主力の高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)は前週比18.9%も値上がり。
良好な7月小売売上高が米国株を勢いづかせた15日(木)には世界最大のスーパーマーケットチェーン・ウォルマート(WMT)が2024年5-7月期決算を発表。
米国内の既存店売上高が予想以上に好調で2025年1月期の通期業績予想を上方修正したことで、株価は週間で8%も上昇。「米国の景気後退懸念は気の迷いに過ぎない」という楽観論につながりました。
16日(金)の8月ミシガン大学消費者態度指数の速報値が予想を上回ったことも好感されました。
今週:FOMC議事録やジャクソンホール会議、植田日銀総裁答弁に注目!円高なら上昇ストップ?
今週は、勢いを取り戻した米国経済のソフトランディング(軟着陸)見通しを受けて米国中央銀行のFRBが今後、どのように利下げを進めていくかに焦点が当たりそうです。
21日(水)には、7月FOMCの議事録が公開されます。
パウエルFRB議長はそのFOMC後の記者会見で「9月の利下げ開始もありうる」と発言しました。9月利下げに続いて、2024年中に何回、どれぐらいの金利幅で利下げを続けるのか。市場はそのヒントとなるFOMC議事録の文言に一喜一憂しそうです。
22日(木)からは毎年、相場を乱高下させることが多いジャクソンホール会議も開催。23日(金)にはパウエル議長の講演が予定されています。
8月上旬の米国株急落の裏には、FRBが高金利政策を長引かせる「失敗」を冒したせいで米国の労働市場が悪化し、景気後退に陥るという不安感の台頭がありました。
ジャクソンホール会議でパウエルFRB議長が今後の米国経済ソフトランディングの道筋と9月以降の利下げスケジュールに関して、どのような具体的なイメージを打ち出し、市場不安を鎮(しず)められるかに注目です。
22日(木)には7月の中古住宅販売件数、23日(金)には7月の新築住宅販売件数も発表されます。
先週は株高につながる良好な米国の経済指標が多かった中、16日(金)発表の7月の新規住宅着工件数は2020年5月以来の低水準まで急減。高金利政策で悪化する米国の住宅関連指標の動向次第では、再び米国の景気後退懸念が広がる可能性もあります。
23日(金)には日本の7月CPIも発表。
同じ23日には、8月上旬の株価乱高下を受けて、7月末に市場の意表を突く利上げを行った植田和男日銀総裁がその経緯について説明を求められる衆議院の財務金融委員会の閉会中審査などが行われます。
その席で植田総裁が依然として追加利上げに積極的なタカ派的発言をするかどうかも、円高や株安に直結するだけに注目されるでしょう。
日経平均は先週3万8,000円の大台を回復しましたが、3万8,000円前後には2024年に付けた安値が集中しており、今後は上昇を阻む抵抗帯になる可能性もあります。
少なくとも、この先も一本調子で急速なリバウンド上昇が続くかどうかは疑わしいところ。
依然として緊迫化するイランとイスラエルの中東情勢やウクライナのロシア領内攻撃など地政学的リスクの高まりにも注意が必要です。
9月下旬に行われる自民党総裁選では、7月に日本株にとって逆風の円安是正発言を行った河野太郎デジタル相や茂木敏充自民党幹事長らの出馬が取り沙汰されています。
9月退陣が決定的となった岸田首相は新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を創設するなど、株式市場に理解がありました。
岸田首相以上に株高に貢献できそうな総裁候補があまり見当たらない面もありますが、9月に向けた自民党総裁選相場の盛り上がりに期待したいところです。