「トランプトレード」のドル高から「ドル高是正」発言で円安に
7月11日の米6月CPI(消費者物価指数)発表以来、日本当局の「為替介入」、トランプ氏暗殺未遂事件、トランプ氏のドル安発言、バイデン大統領の米大統領選撤退表明と怒涛(どとう)の出来事が起こりましたが、為替相場は1ドル=160円の上値が重たい地合いとなってきています。
6月27日の米大統領選の第1回テレビ討論会以降の動きを振り返ってみます。
このテレビ討論会後、トランプ氏優勢の見方が強まり、市場では財政拡大を期待した「トランプ・トレード」(金利高・米国債売り・ドル高)が活発化し、ドルは1ドル=161円台に押し上げられました。
しかし、7月に入って、米雇用統計をはじめとした経済指標が弱かったことや日本当局の円買い介入への警戒感からドルは上値の重い地合いが続きました。
そして、11日に発表された米6月CPIが市場予想を下回り、米CPI発表と同時に実施されたとみられる日本当局の為替介入によってドル売りが強まり、1ドル=161円台から157円台にドル安円高に振れました。
その後いったん159円台になりましたが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の9月利下げ観測が強まり、再び157円台の円高となりました。
さらに河野太郎デジタル相が17日のブルームバーグのインタビューで日本銀行に円安是正のため利上げを求める発言をしたことが伝わり、円ショート(売り)ポジションの巻き戻しが起こって、円高が進みました。
加えて、米国ではトランプ氏が米メディアのインタビューで、対ドルの円安と人民元安を名指しして、ドル高で米国の輸出産業が不利な立場に置かれていると批判したことから、18日には1ドル=155円台前半まで円高が進行しました。
その後、ドルの実需買いによって158円台に戻す場面もありましたが、FRB高官からハト派発言も相次ぎ、ドルの上値は重たい地合いが続いています。
バイデン氏撤退・ハリス氏出馬でトランプトレード解消の動きも
バイデン大統領が7月21日、米大統領選からの撤退を表明し、後任候補としてハリス副大統領を指名しました。そして、ハリス氏は22日に党指名に必要な代議員の過半数を確保し、民主党の指名が確実になりました。民主党は8月7日までに正副大統領候補を正式に指名する予定とのことです。
ハリス氏が大統領候補者になったことで、優勢だったトランプ氏との差が縮まったとの世論調査結果が相次いで報じられています。24日のNHKニュースで報じられたロイター通信と調査会社イプソスの最新世論調査によると、バイデン氏撤退表明後の22~23日の全米対象調査でトランプ氏とハリス氏は支持率が拮抗(きっこう)しているようです。
民主党の副大統領候補が判明すると、選挙戦の先行きは一層不透明感が強まるかもしれません。トランプ氏は副大統領候補にバンス連邦上院議員を起用すると発表しましたが、バンス氏は「ミニ・トランプ」とも称される人物。トランプ氏が二人いるような政権は誕生してほしくないとの世論も根強く、ハリス氏の副大統領候補が誰になるかによって浮動票を引き寄せる可能性があります。
こうしたことから、「ほぼトラ」と断じるにはまだ紆余(うよ)曲折がありそうです。「トランプ・トレード」も解消の動き(反対取引)がみられています。為替相場は、FRBの利下げと日銀の利上げの観測によって円高に動きやすい地合いとなっています。
IMMが19日に発表した16日時点の円ショートポジションは、15万1,072枚(約1.9兆円)と前週から3万0,961枚の大きな減少となりました。CPI発表前の7月2日時点の円ショートポジションは、18万4,223枚(約2.3兆円)と過去2番目の大きさでした(過去最大は2007年6月の18万8,077枚)。
2週間でポジションが大きく減少したことから、再び円を売りやすい水準にあるとみるのは早計かもしれません。円売り余力があるというよりは、この先の大統領選の先行き不透明感や日米の金融政策の変更から変動が激しくなることが嫌気され、さらに円売りポジションを調整してくる可能性も警戒する必要がありそうです。