米ジャクソンホール会議でFRB議長講演、日銀総裁が国会閉会中審査に出席

 ドル/円は今週に入ってから、日本銀行総裁、FRB(米連邦準備制度理事会)議長のそれぞれの発言を23日(金)に控えていることからさまざまな思惑が交錯し、1ドル=145~150円の間を動いています。

 米国で開かれる経済シンポジウム「ジャクソンホール会議(カンザスシティー連邦準備銀行主催の年次シンポジウム)」では、日本時間23日(金)午後11時にFRBのパウエル議長の講演が予定されています。

 この日はパウエル議長講演に先立って、日本では国会の衆議院財務金融委員会と参議院財政金融委員会の閉会中審査で、植田和男総裁に対する7月利上げや株価の乱高下に関する意見聴取も予定されています。

 日米の中央銀行トップそれぞれの見解が7月末の金融会合時と同じなのか、あるいはその後の金融市場の動揺や経済データで変化したのか注目です。

 8月23日は円高、円安の今後の方向を決める為替相場の天王山(天下分け目の大決戦)になりそうです。

相場大荒れの8月、日銀のタカ派急変、米FRBの利下げ遅れが懸念材料に

 これらの注目点を考える前に、8月に入ってからのドル/円相場を振り返ってみたいと思います。

  • 1ドル=150円近辺で始まった8月のドル/円は、1日発表の米7月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数や2日の米7月雇用統計の悪化から、米景気後退懸念が強まり、FRBの9月大幅利下げ期待が高まって円高に。
  • 日経平均株価が5日に史上最大の下げ幅(4,451.28円下落)を記録し、1ドル=141円台半ばまで円急騰。
  • しかし、米景気後退懸念は5日の米7月ISM非製造業景況指数が予想を上回ったことで弱まり、日経平均は6日に一転し、史上最大の上げ幅を記録(3,217.04円上昇)、1ドル=145円台後半まで反発。
  • 日銀の内田真一副総裁が7日、「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と、市場の動揺を鎮めるためのハト派色の濃い発言をして、株価はさらに上昇。12日には1ドル=148円台前半に反発。
  • 14日の米7月CPI(消費者物価指数)はほぼ予想通りで明確な方向感は出ず。

  • しかし、15日の米7月小売売上高が予想を上回り、米新規失業保険申請件数と失業保険継続受給者数も予想を下回ったことから、景気減速、雇用環境の悪化懸念が後退してドル買い優勢となり、1ドル=149円半ばまで円安に。
  • ところが、米7月小売売上高の好結果は一時的要因が寄与したとの見方や米雇用統計の改定で年間雇用者数の伸びが大幅に下方修正されるとの観測から、FRBの利下げ期待は大きく、金利の低下とともにドル/円は1ドル=145円台の円高となり、ドルの上値が重たい地合いが続いている状況。

 このように、ここまでの8月のドル/円相場は、7月31日の金融会合の結果による日銀のタカ派急変への驚きと、米景気減速や労働市場悪化に対するFRBのハト派対応の出遅れ懸念によって相場が乱高下しました。

植田総裁の利上げ姿勢が今後和らげば、円安に動く可能性

 そして、前回のコラム(8月7日公開)で、今後のドル/円相場の展開をみる上では以下の点に注目したいと述べました。

  1. 日銀の7月の会合で見せたタカ派姿勢に変化が見られるかどうか。
  2. FRBは利下げ時期や利下げ幅について、市場は出遅れ感があると市場がみているが修正するかどうか。
  3. FRBの急速な利下げが必要になるような米景気減速が起きるのかどうか。

 1点目については、植田総裁のタカ派発言が市場に大きなショックを与えたことから、前述したように、内田副総裁は市場の動揺を鎮めるためにハト派色の濃い発言をしました。ただ、利上げの方向性を否定していないことには留意しておく必要があります。

「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」との発言は、金融市場が安定を取り戻し、経済・物価が日銀の見通しに沿って動いていくのなら、利上げを行う姿勢のままでいるということになります。

 植田総裁が23日の閉会中審査で利上げについて、どのような説明をするのか注目です。相場はまだ株も為替も不安定な動きをしていることから、植田総裁もタカ派色を和らげることが予想されます。その場合、追加利上げ時期が遅れるとの思惑から円安に動くかもしれません。

 また、内田副総裁は講演会で「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく」と発言し、日銀が出した7月の「展望リポート(経済・物価情勢の展望)」で外された「当面、緩和的な金融環境が継続する」という文言の内容を復活させました。植田総裁も金融緩和継続を強調するのかどうか注目です。追加利上げ姿勢よりも緩和継続姿勢の方が強く示されれば、円安に反応することが予想されます。

パウエル議長は大幅利下げに踏み込んだ発言をするか焦点

 2点目と3点目については、米雇用統計発表後、景気減速懸念が高まり、FRBの9月利下げ幅が0.50%の確率が9割弱となっていました。その後、米小売売上高や直近の米新規失業保険申請件数と失業保険継続受給者数が予想を下回ったことから、景気減速、雇用環境の悪化懸念が後退し、今は3割程度となっています。市場の焦点は、9月0.25%利下げとの見方が大勢で、年内(9月、11月、12月)に複数回の利下げがあるかどうかとなっています。

 しかし、9月の大幅利下げ期待はくすぶっている点には注意が必要です。予想を上回った小売売上高も、6月に米自動車ディーラーの多くがサイバー攻撃を受けた反動による販売増や、アマゾン・ドット・コムのプライムデー、ウォルマートやターゲットの大幅値引きなどの影響によって数字ほど実態が強くない可能性があるとの見方もあります。

 また、今週のドル売り要因の一つになった、米労働省が21日に発表する雇用統計の基準改定値にも注意する必要があります。この改定での2024年3月分までの1年間の雇用者数が大幅に下方修正される可能性(予想30万人減~100万人減)が警戒されています。ちなみに、昨年8月は、50万人程度の下方修正が警戒されていましたが、実際は30.6万人の下方修正でした。

 改定で雇用者数が下方修正されても同期間におけるインフレや個人消費に関するデータが修正されるわけではないそうですが、来年にかけて雇用拡大のペースが減速することが警戒されます。

 直近7月の住宅関連指標や7月景気先行指数も予想を下回りました。パウエル議長は年内利下げを示唆しても、物価安定に注意を払って大幅利下げや複数回の利下げは慎重な言い回しをするかもしれません。

 また、景気動向については後退リスクを意識し、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)後の会見以上にハト派色を強めるとも考えられます。7月のFOMCの声明で二つの責務、物価と雇用の双方のリスクに注意を払っていると変更し、足元の雇用環境に慎重な見方を示したことから、もし、雇用の大幅修正がなされた場合、物価の安定を踏まえて雇用の拡大に軸足を移すような発言がみられるかもしれません。

 このような発言があれば、大幅利下げや複数回の利下げに対する市場の期待が高まることが予想され、再び1ドル=140円方向への円高に進む可能性が出てきます。

 日経平均は今年の下落幅の半値戻しを達成しましたが、ドル/円は達成していません。日銀の利上げ要因が和らいだ中では、FRBの利下げ期待の方が大きいということかもしれません。

 そのため、23日の植田総裁の発言によって円安に振れても、その後のパウエル議長の発言でドル売り(円高)が強くなることも想定されます。

 逆にパウエル議長の発言がFOMC後の会見と同じトーンであれば、期待外れのドル高円安に動くことも予想されるため注意が必要です。今年はジャクソンホール会議のFRB議長講演に加えて、植田総裁が出席する国会の閉会中審査も加わり例年以上に難しい判断となりそうです。