今回は、前回に引き続き「養子縁組」についてです。前回はメリットを中心にお話ししましたが、取り扱いを誤るとトラブルの大きな原因にもなりかねないのがこの養子縁組です。今回は、デメリットや注意点を中心にご説明します。

「養子縁組」のデメリットとは?

養子縁組のデメリットはメリットと表裏一体のような関係ですが、養子縁組を行うことにより、不利益を被る人が出てきてしまうことです。

例えば、養子縁組により相続人の人数が増えてしまうと、もともとの相続人にとっての法律上の取り分である法定相続分や、最低限の保証額である遺留分が少なくなってしまいます。つまり、もともともらえるはずであった財産の額が、養子縁組により目減りしてしまうのです。

また、もともとの相続人が兄弟姉妹の場合、養子縁組により他の人を養子に設けることで、相続人がその養子に切り替わります。兄弟姉妹には遺留分がありませんから、もともと遺産をもらえるはずだった兄弟姉妹が、1円ももらえなくなるという事態が生じることになります。

場合によっては争いの火種をつくる結果にも

これにより容易に想像がつくのは、他の相続人や兄弟姉妹等との争いの火種を作ってしまうことです。

相続が発生すると、相続人間で遺産分割協議が行われます。しかし、養子縁組により意図せざる相続人が増えたことにより、遺産分割協議がまとまらず、各種特例(小規模宅地の評価減など)が使えず相続人の税負担が大きくなってしまう恐れがあります。

中には、相続人や親族同士の良好な関係が悪化し、絶縁状態になってしまうこともあるでしょう。場合によっては、養子縁組は無効であるとして裁判を起こされることも考えられます。

養子縁組により不利益を被るであろう当事者に、あらかじめ相談や説明をせず、了承なしに養子縁組を実行してしまうと、後々の大きなトラブルの原因になりかねないというのが最大のデメリットです。

また、養子と養親(養子縁組における養子の義理の親)との関係によっては、養子が今の苗字を変え、養親と同じ苗字を名乗らないといけないケースもあります。これは当人にとっては非常に抵抗感があるでしょうから、そのあたりもよく相談の上、実行するようにしてください。

認知症でも「養子縁組」は行えるのか?

養子縁組は、所定の様式による届出書を提出し、それが受理されれば成立します。しかし、それは当事者に「意思能力」があることが前提です。

もし、養親となる人が認知症を患っているなどして、意思能力がないと判断された場合、その養子縁組は無効になります。

認知症の養親が提出したとする養子縁組の届出書の効力をめぐっては、数々の裁判が起こされています。養子縁組が有効か無効かにより、他の相続人の相続分が大きく変動したり、もともと相続人であった人が相続人ではなくなることがあるためです。

第5回および第6回の本コラムにて、認知症についてお話ししたことがありますが、認知症により意思能力がなくなった場合は、養子縁組や遺言、贈与などの法律行為は無効となってしまいます。認知症になったら、相続対策は何もできなくなるとぜひ覚えておいてください。

相続対策は「思い立ったが吉日」です。もちろん現状把握なしに不要な対策をしてしまうのは問題ですが、必要と思われる対策は、ご自身や親御さんが心身ともに元気なうちに実行するように心掛けてください。

税務面からみた「養子縁組」の注意点

注意していただきたいのは、「養子縁組」はそもそも当事者(養親と養子)間で養親子関係を持つことに同意することにより成立するのであって、単に節税のみの目的で養子縁組をした場合は、それが認められない可能性もあります。

国税庁のホームページにも、「ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)又は(2)の養子の数に含めることはできません。」(筆者注:(1)は実子がいる場合1人まで、(2)実子がいないまで2人まで含められるという説明文)と記されています。

また、ある特定の相続人の遺留分を減少させることのみを目的とした養子縁組も、同様に無効となる可能性があるため注意してください。

あくまでも、養親と養子の間で養親子としての関係を持つことに同意することによって養子縁組が成立し、その場合には結果として税務面でいくつかの恩恵を受けることができる、ととらえておくべきです。

あまりにもあからさまな養子縁組を行えば、他の相続人から訴訟を起こされ、相続人間の軋轢を生み、親族間の交流が断絶してしまいかねません。

養子縁組を実行する際には、特にそれにより不利益を被る人に対し、なぜその養子縁組が必要であるのかをよく説明し、同意を取りつけてから実行することを強くお勧めします。

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