意外と多い親子での「上場株式」や「投資資金」のやりとり
皆さんは、株式投資の資金はご自身で捻出されていますか? 筆者は全て自分自身で捻出していますが、両親や祖父母から投資資金を援助してもらって株式投資をしている、という方もいらっしゃるでしょう。
また、株式そのものを親御様から贈与してもらったり、相続で引き継いだ、という方も少なくないと思います。
相続で引き継いだ場合は、相続税がかかるようなら相続税の申告・納税をすればそれで問題ありません。気を付けなければいけないのが、親子間や祖父母と孫との間で上場株式や、株式の投資資金をやりとりした場合です。
例えば楽天証券であれば、上場株式を贈与する場合は、証券会社所定の書類の他、「贈与契約書のコピー」が必要となっています。
(参考:楽天証券HP)
自分は株や投資資金を「もらった」つもりでも…
なぜ、上場株式を贈与する場合の手続き書類として贈与契約書が必要となるのか。それは親子間での株式のやりとりが「贈与」であることを立証するための証拠書類となるからです。
民法の世界では、口約束でも贈与が成立します。しかし税務においてそれを認めると、納税者が贈与であると主張することで税逃れを許してしまうことになってしまいます。
従って、贈与契約書など、贈与の証拠をしっかり書面で残す必要があるのです。
もしこの点がおろそかになると、自分としては親から株をもらったつもりでも、単に親が所有している株を名義だけ子供に移しただけで、実態は親の所有のまま、という判定を税務当局から受けてしまうおそれがあります。
その結果、生前贈与により相続税の節税をしたつもりが、贈与が認められず「名義株」として親の相続財産に加算されてしまい、節税効果を得ることができなくなるのです。
いつの間に親御さんが子供名義の口座を開設していることも
筆者は税理士として相続の仕事を数多く行っておりますが、一昔前によくあったケースとして、親が勝手に子供名義の口座をつくり、そこに親の資金を入金し、親が株を買って保有しているということがよくあります。
つまり、子供が知らないうちに、親が子供の名義で証券口座を開設し、そこに親が資金を入れて株を買って運用しているのです。
この状態で親の相続が発生したら、子供名義の証券口座で株を保有していたとしても、生前に贈与は成立していないため、名義が子供であっても親の財産と認定されてしまいます。
名義とは別の人が実質的な所有者と認定されるこの名義財産、預金に非常に多く見受けられるのですが、上場株式の場合もいわゆる「名義株」として税務署に指摘されることは多いです。
「名義株」に認定されるとどうなるのか?
もし名義株と認定された場合、名義人と実質的所有者が異なるわけですから、実質的所有者が亡くなって相続が発生した場合は亡くなった方の相続財産となります。
でも、名義株が生じている状況というのは、親からすれば子供にその株を贈与したという認識でしょう。生前に財産を贈与することで、相続財産を減らすことができ、相続税の節税につながりますからその効果を期待して、子供名義の証券口座をつくり、そこで株を保有させているのです。
ところが上で申し上げた通り、贈与契約が有効に成立していなければ、単に親の所有する財産を、子供の名義の証券口座で保有していただけ、という話になるので、名義株として親の相続財産に加算され、相続税の課税対象となってしまいます。
また、生前の財産の移転につき、贈与税の申告・納税をしていないケースは極めて多いです。また贈与契約書を締結していないケースもとても多いです。
もし贈与が成立していた場合、贈与税の時効は原則として7年ですから、相続が発生した際にすでに7年経過していれば、贈与税を支払う必要もなくなります。
しかし税務署としては、贈与税の申告・納税もせず、贈与契約書も締結していないとなれば、そもそも贈与が成立していない、と主張してきます。贈与ではなく、名義株であるとして相続財産に加算するよう言ってくるでしょう。
なぜなら、名義株というのはそもそも親の財産なので、時効という概念がありません。贈与と認定してしまうと時効で税金をとりっぱぐれてしまいますが、贈与であるという明確な証拠がなければ、相続財産に組み込まれて相続税の課税対象となってしまうのです。
「名義株」と認定されないためには
もし生前贈与により株を移転させ、相続税を減らそうと考えているのであれば、税務当局に「名義株」と認定されないような証拠の準備が必要不可欠です。そのためには以下のような点に注意すべきです。
なお、株そのものを贈与する場合も、投資資金(金銭)を贈与する場合も考え方は同じです。
- 贈与契約書を作成、保管しておく
- 贈与税が生じる場合は贈与税の申告・納税をしておく
- 子供名義の証券口座は、子供が成人していれば子供自身が管理する(ネット証券ならID・パスワードを子供自身が知っていないと名義株を疑われる恐れあり)
- 子が親から投資資金を贈与してもらう場合は、投資資金の贈与契約書を作成するとともに、いったん子の銀行口座に親が振り込みをし、そこから子の証券口座に子自身が入金する
贈与をしたつもりなのに税務上贈与と認められないケースは非常に多いです。できれば税理士のサポートの下、しっかりと証拠を残した上で贈与を実行することをお勧めします。