とても目につく「今回は」という言葉
上の「時間的余裕」という言葉と関連しますが、今回、特に目についたのが、市場動向を確認するために利上げを一時停止しているだけだということを伝えようとする言葉、すなわち「今回は」です(図表3)。
図表3 10月「主な意見」の金融政策に関する意見で見られた「今回は」
図表3の一つ目の意見に掲載された「今回は、」も、三つ目の意見の「今回は」も、2番目の意見がまさに示している「一時的に様子見した」ことを強調する言葉であり、次回会合に向けて「追加的な利上げを展望していく状況」であるとの見方で、この三つの意見は共通しています。
来年度予算の閣議決定は12月利上げの障害になるか
最後に、政府の発言も見ておきましょう。財務省からは図表4のような意見が出ています。
図表4 10月「主な意見」の政府の意見(財務省)
一つ目の意見は経済対策と補正予算に関する情報共有ですが、今後の日程を考えると、11月下旬に補正予算が閣議決定され、12月上旬に召集される臨時国会で成立する見通しです。
問題は、このレポートでも何度かお伝えしている2025年度予算案の閣議決定のタイミングです。例年、クリスマス前の22日か23日に閣議決定されますので、今年も同じようなタイミングになるとすれば、その直前に12月金融政策決定会合を迎えることになります。
しかし、今回は、政局も絡み閣議決定のタイミングが後ずれする(例えば、12月27日)との見方があります。また、そもそも予算の前提となる長期金利の想定が、ある程度の金利上昇に耐えられる決め方となっています。
具体的には、財務省は10年金利の過去数カ月の平均値に1.1%を加算して想定していますので(1.1%は、1998年12月の運用部ショックと2003年6月のVaRショックのときの上昇幅)、例えば過去数カ月1.0%で推移していた場合、想定レートは2.1%になる計算です。
したがって、財務省にとっては、利上げのタイミングが問題というより、むしろ2025年度中に日銀が何%まで利上げするつもりなのかの方が重要かもしれません。
また、二つ目の意見には、市場とのコミュニケーションが指摘されています。本稿では特に紹介しませんでしたが、政策委員の意見の中でも、7月利上げ後の市場の急変動とコミュニケーションの混乱を意識したものがいくつか見受けられました。
ブルームバーグが10月17~22日に実施した日銀ウオッチャー53人(筆者も含まれています)を対象とする日銀サーベイによると、28人(53%)が12月、17人(32%)が1月の利上げを予想しており、随分と利上げ見通しが12月に寄ってきたように感じます。
しかし、債券市場全体で見れば、まだまだ利上げの織り込みは進んでいない状況です。日銀がコミュニケーションを意識して、サプライズなしのスムーズな利上げを望んでいるのであれば、もう一段積極的な情報発信が今後あるかもしれません。その意味で、来週開催が予想される植田総裁の名古屋講演が注目されます。