中央銀行は金(ゴールド)の「本性」を認識

 金(ゴールド)の本性とは、いったい何でしょうか。これは大変に難しい問いです。超長期的に変わらないもの、という点でいえば、「最後のよりどころ(ラストリゾート)」、発展させれば「信仰の対象」となるでしょう。

 これらは、長い人と金(ゴールド)の長いお付き合いの延長線上の話であり、単発的に恐怖をかきたてる有事や株の暴落、ドルの暴落などとは無縁です。金(ゴールド)にかかわらず各種市場が現在の形を示し始めた1970年代以降で見ても、どんなに短くでも10年以上続いている話です。

 以下は、筆者が提唱する金(ゴールド)に関わる七つのテーマです。これらのテーマの中長期と超長期に分類したテーマのうち、「中央銀行」と「見えないジレンマ」が最後のよりどころや信仰の対象に関わっています。(前回まで「見えないリスク」としていましたが、短中期の有事ムードと明確に区別するため、「見えないジレンマ」に変更しました)

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年8月時点)

出所:筆者作成

 以下のグラフのとおり、国内外の金(ゴールド)価格はともに史上最高値水準で推移しています。重要なことは、グラフの見た目がもたらすあいまいな値ごろ感ではなく、金(ゴールド)の「本性」です。

 新興国を中心とした中央銀行が2010年以降、金(ゴールド)を買い続けている一因に、中央銀行らが西側と非西側の分断やSNS・ESG起因の世界的な混乱を嫌気していることが挙げられます。その意味で、中央銀行は金(ゴールド)の本性を把握していると言えます。

 そしていずれ、われわれの個人も中央銀行のように、西側と非西側の分断やSNS・ESG起因の見えないジレンマ(良かれと思ってしたことがかえってあだになること)に気づき、よりどころを求めるようになるかもしれません。

 長期視点の金(ゴールド)相場の上昇は、有事ムード、代替資産、代替通貨などの短中期のテーマではなく、中長期や超長期のテーマがきっかけで起きていると考えるのが自然です。長期視点の上昇を短期的な有事ムードだけで説明することは、現代の金(ゴールド)相場の分析には、到底なじみません。

図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1973年~)

出所:LBMAおよび国内地金大手のデータをもとに筆者作成