市場関係者は「四つのゾーン」を意識したい

 こうした環境の中で、われわれ市場関係者はどのように金(ゴールド)と向き合うべきなのでしょうか。「魔性」の奥にある「本性」に考えを巡らせることが、われわれが求められていることであると考えます。これは、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を順守するためにも、必要なことです。

 そもそも、金(ゴールド)は、みすみす魔性の存在にしておくには、惜しい存在です。金(ゴールド)を、単なる「恐怖の媒介者」や「恐怖の吹きだまり」にしては、もったいないです。だからこそ、「本性」に注目する必要があります。それにはこれまでの常識を超えた発想が必要です。

 発想を飛躍させるには、情報の発信者・受け手ともに自分自身の現在地を知る必要があります。そして、目的地との距離を認識する必要があります。人の「ゾーン」に注目することで、現在地や目的地を知ることができます。以下は、国内外の多くのビジネス書などで述べられている「四つのゾーン」(一部、筆者加筆)です。

 簡略化され、快適ゾーン(恐怖ゾーン込み)と学習ゾーン(成長ゾーン込み)の二つで述べられるケースもありますが、ここでは各ゾーンの違いをより明確にするため四つを示しています。

 快適ゾーンは安全・安心を感じる、低リスク・低リターン、少し退屈、安全と制御への誤解をともなうゾーンです。そして恐怖ゾーンは他人に気を取られる、言い訳・弁解をする、低い自尊心、間違いを気にするゾーンです。

 専門家は、多くの人は、安心で退屈な快適ゾーンと、依存・低信頼の恐怖ゾーンを行き来していると指摘しています。これらのゾーンでは、思考法は具体、視野・志向は点・現在、という傾向があります。このため、金(ゴールド)を魔性の存在に位置付けている情報の発信者や、恐怖にあおられる情報の受け手の多くは、これらのゾーンにいると、考えられます。

図:人の「四つのゾーン」

出所:各種資料より筆者作成

 学習ゾーンは挑戦して問題を解決、過ちを認める、新しいスキルの獲得、高い自尊心をともなうゾーンです。そして成長ゾーンは夢を謳歌(おうか)、高揚感、目的と意義の発見、新しいゴールの設定、誰・何にも制限されないゾーンです。

 自律・無限大の傾向がある成長ゾーンは自立・高信頼の傾向がある学習ゾーンの発展形です。このため、これら二つのゾーンにいる情報の発信者と受け手は広い視野、高い視座で物事を認識する傾向があることから、金(ゴールド)市場を見る際は「本性」の部分を見ていると、考えられます(魔性の部分を承知した上で)。

 金(ゴールド)を単なる「恐怖の媒介者」「恐怖の吹きだまり」にしないために、われわれ市場関係者(情報の発信者・受け手)は、少なくとも学習ゾーンにいる必要があります。一般に、恐怖ゾーンから学習ゾーンに移行することは難しいと言われていますが、筆者が考える誰にでもすぐできる移行方法があります。それは「読書」です。

 もし、本レポートを読んでいただいているあなたが今、快適ゾーンか恐怖ゾーンにいると感じておられれば、どんなジャンルでも構いませんので、月に2冊程度、異なるジャンルの本を読んでみるとよいでしょう。

 紙の本をゆっくりめくりながら、じっくりと文章を味わうことを習慣付けることで、今よりも格段に、具体と抽象を行き来できるようになり、情報で線や面、立体を描けるようになり、語彙力がさらに増すでしょう。そうなれば、学習ゾーンの入り口に立ったも同然です。

 実は「学習ゾーンへの移行」は、金(ゴールド)投資に限らず、全ての投資に有効です。8月初旬の大暴落の際、あわてて売った方、そうでなかった方、安値で買った方、さまざまだったと思いますが、目先の恐怖に駆られたり、間違いを気にしすぎたり、誰かの言葉を気にしすぎたりして、残念な結果となった方もおられると想像します。

 学習ゾーンや成長ゾーンにいる投資家であれば、あの暴落をチャンスに替えられたかもしれませんし、仮に損が発生していたとしてもそれを「自分のこと」と捉え、納得できているかもしれません。情報の発信者においても同様です。恐怖をいたずらに流布しない、あおらない情報発信は、学習ゾーンや成長ゾーンにいなければできないと筆者は考えています。