中国でも「日経平均の史上最高値更新」は連日ニュースに

 2月22日、東京株式市場の日経平均株価(225種)終値は3万9,098円となり、バブル経済の渦の中にあった1989年12月29日以来、34年2カ月ぶりに史上最高値を更新しました。

 本連載がフォーカスするお隣の中国でも、その模様はリアルタイムで報じられています。国営新華社通信といった官製メディアから、より市場原理で報じる傾向のある経済系のメディア、そしてソーシャルメディアまで、広範かつ緊密に日本株式市場に起きている歴史的現象をウオッチしていると感じます。「日経平均が史上最高値を更新」という最多のタイトル以外にも、

「日経平均史上最高値更新の勢いは止まらない、日銀は3兆2千億円も儲かっている(ETF買い入れにより)」

「日経平均がまたしても史上最高値を更新。どういった要因が日本株式市場を押し上げているのか」

「日経平均史上最高値更新後、資本市場は日本労働組合の『春闘』に注目」

「日経平均は上昇しているけれども、対米ドルの為替レートには寂しさが募る」

 こういったタイトルが中国世論を駆け回っています。私自身、2000年代初頭に中国で学び、北京の地で約10年生活しましたが、中国の知識人や学生たちは、日本経済といえば「バブル崩壊」「失われた10年(当時の表現)」といった言葉で語られていました。

 当時、既に2008年に北京五輪、2010年に上海万博を主催することが決まっていましたが、中国版の高度経済成長を追求していく中で、バブル崩壊、少子高齢化、貧富の格差、公害問題、社会保障、中産階級の拡大といったテーマが、日本との比較、および日本からの教訓といった角度で議論されていたのを覚えています。

史上最高値更新の背景や理由に関する分析は?

 日経平均史上最高値更新の背景や理由、展望に関して、当事国である日本ではこれでもかというくらい分析や議論は出尽くしている感じですが、中国でも専門家や市場ウオッチャーらが、一定数の分析を披露しています。

 以下、典型的な例をいくつか見ていきましょう。

 中国を代表する経済メディアの一つである「21世紀経済報道」紙は2月27日、「日経平均が史上最高値更新、日本経済はいつ『失われた30年』から抜け出るのか?」というタイトルで長めの記事を掲載しました。

 記事では「なぜ日本株がこれだけ盛り上がっているのか?」という問題提起をした上で、スタンダードチャータードチャイナのウェルスマネジメント部チーフインベストメントマネジャーの王昕傑氏の見解を紹介。

 それによると、今後の注目点として、(1)為替レート、(2)日本銀行の政策の2点を挙げています。

(1)に関して、円安基調の継続は日本企業の海外での収益という意味では、企業株価の上昇、収益の拡大という意味では追い風であり、為替レートの株価への影響は限定的。

(2)に関して、日銀が利上げに踏み切った場合、為替レートや資本コストに一定のショックを与える可能性あり、と指摘。短期的には、日経平均は下落する可能性はあるが、中長期的に見れば、企業の全体的収益は株価を支え、さらなる上昇と更新も見込める。海外からの投資という意味で言えば、日本は最優先すべき選択肢であると分析しています。

 記事では中国人民大学重陽金融研究院研究部主任の劉英氏の分析も掲載。「日本経済は昨年来困難を抜け出している」とした上で、その理由として、

1.日経平均の史上最高値更新は経済の今後に対する期待値を表していること
2.日本経済の成長が予測可能であること
3.日本が長年続いたデフレスパイラルから抜け出したこと

の3点を挙げています。

 一方、日本には依然、経済構造を巡る問題、少子高齢化といった問題が残り、しかも日本経済がデフレを脱却した理由も異次元の量的緩和によるもので、懸念は残ると指摘しています。

 同じく中国を代表する経済メディア「上海証券報」は2月22日、「日経225指数、史上最高値更新!」と題した記事を掲載。その中で、同紙の見解として、今回の最高値更新にとって一つのきっかけになったのが、昨春のウォーレン・バフェット氏訪日で、それによって海外の投資家が日本市場に注目し始めたことを挙げています。

 その上で、海外資金の流入が最高値更新にとって直接的な要因であったこと、日本経済が低金利、デフレ、低成長から抜け出すプロセス自体が、海外資金の流入を後押ししたこと、東京証券取引所によるガバナンス改革、上場企業の収益力向上、デフレ時代終焉(しゅうえん)への期待感、日銀の量的緩和なども、日経平均の史上最高値更新を後押ししたと分析しています。

それに比べて中国株式市場は…

 中国世論では「日経平均は4万円も目の前に見えている」といった言論も散見されますが、同時に、そこには何とも言えない虚無感が漂っているように見受けられます。

 私が真っ先に想起したのが、中国国民が、自国が出場したことのないサッカーのワールドカップをテレビなどで観戦する中で、とてつもない盛り上がりを見せていた光景です。中国でサッカーは大人気で、ワールドカップに出場することは、中国男子サッカー代表、そして14億の中国国民にとっては長年の悲願。それが現在に至るまで達成できていないにもかかわらず、ワールドカップ期間に入ると、人々は知人たちとカネを賭けたり、オーナーがサッカー好きの場合は仕事を休みにしたり、夜のパブやバーにはサッカーファンが溢れかえったり、とにかく熱狂的なのです。ただ、そこに中国チームは不在です…

 今回、中国の人々がお隣日本における株価最高値更新を見て、語る光景にも、どこかそうした虚無感を禁じ得ません。翻って、中国株式市場を見てみると、私が本稿を執筆している2月28日午前、上海総合指数は3,030ポイントで、春節前の2,600ポイント台からは若干回復していますが、それでも非常に低い値で推移しています。中国経済を巡る低迷感と停滞感のなせる業ということなのでしょう。

 中国研究を生業(なりわい)とする私の立場からもう一点指摘したいのは、「日経平均はかつてないほど盛り上がっている。それに比べて上海総合指数は…」という問題提起や比較分析をメディアや専門家が行うことは、中国においては「政治的タブー」に相当し、場合によっては中国政府による処罰に遭います。

 言うまでもなく、日本と中国の経済における株式市場の位置づけは異なりますから、単純比較はできないですが、それでも、日本や米国で起こっている株高現象を受けて、中国がこれらの先進国における盛り上がりにキャッチアップするためには何が必要か、中国経済は、資本市場はどうあるべきか、といった国民的議論が盛り上がってほしい。

 そういう過程で、中国経済と世界経済の間のダイナミックな相互作用が生まれるのではないかと考える今日この頃です。