インドとトルコはリーマンショック後に非西側化

 リーマンショック以降、金(ゴールド)の保有量を増加させた国について、「自由民主主義指数」を用いて確認します。

「自由民主主義指数」は、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所が公表しています。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強い、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

図:リーマンショック以降、金(ゴールド)の保有量増加が目立った国の自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 特に金(ゴールド)の保有量の増加幅が大きいロシアの同指数は、1990年代前半、旧ソ連崩壊を機に民主化が進むことが期待され、一時的に上昇しました。しかし、1999年に第二次チェチェン紛争が勃発してプーチン氏(現大統領)の影響力が急拡大した直後に、急低下しました(2022年の同指数は0.071)。

 ロシアに次いで保有量の増加幅が大きい中国は恒常的に「非民主的」な国です(2022年の同指数は0.040)。

 インドとトルコは、リーマンショック後に同指数が急低下した国です。インドの同指数は、ショック直後から急低下し、トルコの同指数は、ショック後に低下に拍車がかかりました。同ショック前の2000年代前半、インドもトルコも同指数が0.5を超える、どちらかといえば「民主的な国」でした。

 人口の増加率や経済成長率が比較的高く、民主的であることをよしとする西側と、今後も同調することが予想されていたインドとトルコでしたが、同ショック直後から猛烈なスピードで「向こう側」に行ってしまいました。

 両国とも、2010年以降の西側の方針(石炭の使用を否定する環境問題を提唱したり、信用リスク膨張を承知で金融緩和を実施したりしたこと)に賛同できない環境にあったことが背景にあると考えられます(以前のレポート「原油高とSDGsの深遠な関係」で述べたSDGsにおける「置き去り」と関連)。

 こうした指数の動きは、非西側主要国で「脱西側」が進んでいることを示唆しています。金(ゴールド)の保有量の動向は、非西側主要国で、西側と経済・文化・思想など、さまざまな分野で距離を置く「脱西側」が進んでいることを示していると、筆者は考えています。

 リーマンショック後に膨れ上がった「西側」と「非西側」の分断が解消しない限り、非西側主要国における同指数の低下・低迷、金(ゴールド)保有量増加の傾向は、変わらないと考えます。

 ウクライナ危機が分断を解消させない強力な「楔(くさび)」の役割を果たしているため、状況を変えることは困難でしょう。今後も長期的に、こうした状況が続く可能性があると、筆者は考えています(先述の七つのテーマの一つ「見えないリスク」にも関連)。