しないはずの「置き去り」に非西側は失望
減産を実施しているOPECプラス(OPEC(石油輸出国機構)に加盟する13カ国と、ロシアなどの非加盟の10カ国、合計23カ国)に属する産油国の多くは非西側です。なぜ「非西側」の産油国は減産に躍起になるのでしょうか。
理由は三つあると、筆者は考えています。(一)自国の情勢安定、(二)西側への制裁(戦時対応)、(三)西側への制裁(長期視点)、です。
(一) 自国の情勢安定
IMF(国際通貨基金)によれば、非西側の主要産油国の財政収支が均衡するときの原油価格はおおむね「67ドル」です(サウジアラビア、イラク、オマーン、クウェート、UAEにおける2021年・2022年の平均)。
産油国にとって、財政収支が均衡するときの原油価格は、国内の情勢が良くなるか悪くなるかの節目と言えます。「国民へのバラマキ」で成り立っている産油国は特に、こうした価格(節目)を「割らせない」ことを最重要課題と認識しているようです。
このため、非西側の産油国は減産を実施し、原油価格を高値で維持し(あわよくば上昇させ)、国内情勢を安定化させようとしているのです。4月に見られた、70ドル割れ→追加減産決定、という動きは、こうした背景があると考えられます。
(二)西側への制裁(戦時対応)
「減産実施」は「非西側産油国による西側への制裁」という意味があります。西側はロシア(非西側の大国)の原油を「買わない」、あるいは事実上「上限価格」を設定しています。ウクライナ危機を勃発させたロシアの戦費をそぐための制裁です。
OPECプラスは、同組織が誕生した2016年12月から新型コロナがパンデミック化した2020年のはじめまで、OPEC(サウジ主導)のみの総会を先に行い、おおむねその翌日にOPECと非OPEC(ロシア含む)の閣僚会合を行っていました。このころはまだ、サウジの意向が反映されやすい時期でした。
しかし現在は、総会前にロシアを含んだ共同閣僚監視委員会(JMMC)を行い、そこで減産などの方針をほぼ決定しています。OPECプラスはロシアの影響を強く受ける組織に変貌したのです。そのロシアは、産油国共通の願いである「原油価格上昇」を旗印に、組織内で減産を主導していると、考えられます。
今、我々日本を含む西側諸国は、非西側の産油国(ロシア主導)が実施している減産による原油高のおかげで、高インフレにあえいでいます。これはまさに、「非西側産油国による制裁」だと言えるでしょう。
(三)西側への制裁(長期視点)
SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰も置き去りにしない(No one will be left behind)」ことをうたっています。2015年9月の国連総会で採択されました。OPECプラスが誕生する前年のことでした。
採択後、時がたつにつれ、「化石燃料は悪」「それを生産する国との付き合いを減らすべき」というような風潮が出てきました。それと同時に、化石燃料を否定することによってビジネスが活発化していきました(ESG(環境、社会、企業統治)を考慮した投資活動、電気自動車などの製造・販売・使用など)。
SDGsは「誰も置き去りにしない」はずでしたが、非西側の産油国は、「置き去り」にされてしまいました。収益の柱である化石燃料を否定され、収益を失えば失うほど、西側の収益は増えていく構図が目立ち始めました。
しないはずの「置き去り」が起きたことで、長期視点では、非西側の産油国は西側に対し、少なからず、失望や怒りに似た感情を持っている可能性があります。それが今、「減産実施」という行為に表れていると、筆者は考えています。近年、産油国が中国と急接近しているのも減産実施と同様、こうした背景(西側への失望)があると考えられます。
上記のように考えれば、「減産(≒原油価格高止まり)」には、複数の意味あることがわかります。非西側産油国は減産を実施することで、これらをまとめて実現していると言えるでしょう。非西側産油国にとっての減産実施は、単なる価格つり上げ策ではないのです。