ウクライナ危機は「後戻り防止装置」

 以前のレポートで述べてきたとおり、過去から続く「西側」と「非西側」の間にある「分断」は、ウクライナ危機の遠因だったと筆者は考えています。本レポートで述べたSDGs(2015年採択)を合わせて考えると、SDGsで「置き去り」発生→西側と非西側の「分断」深化→ウクライナ危機勃発(2022年)、となります。

 そしてこのウクライナ危機が今、「分断」を固定化する役割を担っていると考えられます。さながら、分断を固定化する前の状態に戻さない「後戻り防止装置」です(ここまでの覚悟をもって、ロシアは軍事侵攻を始めた可能性がある)。

 危機があることで、西側も非西側も制裁の応酬(利上げvs減産など)を繰り返し、「分断」を解消する糸口が見えません(西側もまた、「分断」深化に加担している)。

図:WTI原油先物(日足 終値)単位:ドル/バレル

出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成 

 また、危機勃発を機に生じた西側の混乱に乗じ、ここぞとばかりに影響力を示し始めた非西側の国が複数あります。西側に対して食料、エネルギーなどの重要品目や資金を出し渋ることで、高インフレをもたらして西側をさらに混乱させたり、西側の銀行を連鎖破綻に追い込む一因をつくったりしています。

 非西側にとって、危機継続は一定のメリットがあるのです(もちろん相当の代償をはらうことになるのだが)。このため、危機継続→分断深化続く→減産終わらない→原油高継続→西側の高インフレ続く、という構図が続く可能性があります。

 起点がSDGs起因の「置き去り」であったり、固定化された「分断」であったりする今のインフレは、非常に根が深いと言わざるを得ません。筋違いな対症療法(西側の利上げ)でなんとかできる代物ではないと、筆者は感じています。