長期:非西側の出し渋りと脱炭素が支える

 ここまで、プラチナ市場を短期・中期視点で振り返り、展望しました。ここからは、長期視点で考えます。以下は、WPICが公表しているデータをもと計算した、プラチナの国別鉱山生産シェアです。

 シェア1位が南アフリカ(71%)、2位がロシア12%、3位がジンバブエ(9%、南アフリカの北東部と隣接)です。プラチナは生産国が偏っている(偏在している)ことがわかります。これらの国で何か起きた時、全体的な供給懸念が高まりやすいと言えます。(冒頭で述べた南アフリカの電力不足起因の供給懸念がこれにあたる)

図:プラチナの国別鉱山生産シェア(2022年)

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 以前のレポートで何度か触れている「自由民主主義指数」は、どの程度なのでしょうか。同指数はヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所が公表しています。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強い、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

 以下のとおり、生産シェア2位のロシア、同3位のジンバブエは恒常的に0に近い、つまり、ほぼ常に非民主的であると言えます。こうした国は、民主的な国家との対立が激化した場合、「出さない」ことをほのめかし(資源を武器として利用し)、自分たちを有利にすることができます。

 同シェア1位の南アフリカはどうでしょうか。2000年以降、じわじわと上昇していました(民主的な傾向が少しずつ強くなっていた)が、2011年ごろから下落傾向が目立ち始めています。ここ10数年間、プラチナの最主要鉱山生産国である南アフリカの民主的な傾向は、弱まりつつあるのです。

 以前の「震災の年を起点に行う、コモディティ市場分析」で述べた、2011年ごろから民主的な傾向がある国の数が減少している流れの一端であると考えられます。

図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 南アフリカの民主的な傾向の低下が続けば、長期視点のプラチナの供給懸念が高まります。こうした状況にある中で今年2月、南アフリカは同国付近で、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと、ロシアと同じく米国と対立を深める中国と、軍事演習を行いました。

 南アフリカは今、自由民主主義指数が極めて0に近く、非民主的な傾向が特に強いロシア(0.071)と、中国(0.040)(ともに2022年)に取り込まれ、今後ますます、民主的な傾向が弱くなる可能性があります。

 先述のとおりこうした国は、民主的な国家との対立が激化した場合、「出さない」ことをほのめかし(資源を武器として利用し)、自分たちを有利にすることができます。

 この点は、長期視点のプラチナ価格の上昇要因になり得ます。