中期:VW問題起因の風評被害を乗り越える

 ここまで、プラチナ市場を短期視点で振り返り、展望しました。ここからは、中期視点で考えます。以下は、WPIC(World Platinum Investment Council)が公表している、2014年以降の自動車排ガス浄化装置向けのプラチナ需要のデータです。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:キロオンス

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 2015年9月、「フォルクスワーゲン(VW)問題」が発覚しました。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが違法な装置を使い、不正に排ガステストを潜り抜けていたのです(テスト時に限り、有害物質の排出量が少なくなる装置を使っていた)。

 これを機に、同社の主力車種だったディーゼル車(燃料が軽油、欧州で広く流通)を否定する動きが強まりました。そして、同車の排ガス浄化装置向けに多く使われる「プラチナ」への悲観論が膨れ上がりました。

 同装置は、プラチナが持つ触媒作用(一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用)を利用して、エンジンから排出される排気ガスに含まれている有害物質を水や二酸化炭素、比較的毒性の少ない物質に変える役割を担っています。

 同装置向けの需要はプラチナのメインの需要です(同装置向け40.6%、その他産業向け31.4%、宝飾向け24.2%、投資向け3.7%。2023年WPICの見通し)。同問題が発覚したことで、世界で(日本でも)「プラチナの需要は減る一方だ」「プラチナはもうダメだ」「プラチナ価格はもう上がらない」などと、プラチナを否定的に見る論調が強まりました。

 こうした「まことしやかな」批判は問題発覚後、今でも続いていると、筆者は感じています。しかし実際は、上図のとおり、同需要は減る一方でも、プラチナがダメになるわけでもありませんでした。(このことを風評被害と言うアナリストがいる。同感である)

 さらには、2023年の同需要は2015年(同問題が発覚した年)を上回るという見通しが示されています。WPICはその理由を、(1)ハイブリッド車の生産増加(プラチナをより多く使う)、(2)中国の大型車生産増加(「国 VIb」排ガス規制対応)、(3)ガソリン車でパラジウムの代替としてプラチナを使う動きが目立っている(価格が割安)、などとしています。

 確かに欧州の同需要は減少しましたが、近年は、中国などで増加が目立っています。また、北米ではコロナ禍起因とみられる減少から回復傾向が鮮明になっています。全体として、プラチナは風評被害から回復しつつあるのです。

 この点は、中期視点のプラチナ価格の上昇要因になり得ます。