「2011年」は世界の転換点でもあった

 東日本大震災が発生した2011年、世界では大きな変化が起きていました。自由で民主的な国家の数が減少に転じ、そうでない国家(非民主的な国家)の数が増加に転じた年でした。

 今月、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所は、「自由民主主義指数」の最新版(2022年版)を公表しました。この指数は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義をはかる複数の側面から計算されています。

 0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、民主的な傾向が弱い(民主的ではない)、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

 以下は、同指数が0.5以上ある民主的な傾向が強い国(ここでは民主国家とする)と、0.5未満の民主的な傾向が弱い国(ここでは前者に対し、非民主国家とする)の数の推移です。

 ベルリンの壁崩壊(1989年)や、EU(欧州連合)発足(1993年)前後に、非民主国家の減少と民主国家の増加が同時進行しました。民主的であることが正義、とすら言われた時代です。

図:自由民主主義指数0.5以上および0.5未満の国の数(1975~2022年)

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

  しかし「2011年」を境に、非民主国家が増加、民主国家が減少に転じました。(この年、非民主国家の数が106で統計史上最少、民主国家の数が68で同最多)。2011年以降、世界全体が、非民主的な色合いを強め始めたと言えるでしょう。民主的であることが否定的に映りやすい出来事が、同時多発したことが背景にあると、考えています。

 リーマンショック後、欧米が大規模な金融緩和を行ったことで、信用が異次元のレベルまで膨張し始め、信用収縮への不安が拡大したこと、欧州が「環境問題」を強力に推進しはじめ、産油国・産ガス国との軋轢(あつれき)が大きくなり始めたこと、欧米が「人権問題」を強く主張したことを受け、かえって独裁国家からの反発が強くなったこと、アラブの春(北アフリカ・中東地域での民主化の波)が起きたものの、再び独裁色が強い状態に戻った国が複数あったこと、などです。

 各所で、欧米が強く「良し」としてきた民主的であることを、否定する動きが目立ち始めたタイミングが「2011年」ごろだったわけです。