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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「米国株は「2つの金利上昇」に耐えられる?銀行不安どうなる?楽観論と悲観論」
欧米で金融不安つづく
先週(3月20~24日)は、日経平均株価・米国株指標ともに小幅上昇しました。欧米の金融当局が金融不安の広がりを抑えるために次々と対策を出してきたことで、信用不安が低下する期待が出ました。ただし、実態として、金融不安はまったく収まっていません。
過去3週間(3月6~24日)の日米株価指数の騰落率
過去3週間、米国および欧州の金融不安をめぐって、世界の株式が乱高下し、世界中で銀行株が急落しました。金融不安はまだ収まっていません。
一方、金融不安が高まった影響で、世界的に金利が低下しました。「FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ停止時期が早まる」との期待が出ました。ところが、FRBは22日に0.25%の利上げを実施し、さらに年内1回の利上げを示唆【注】しています。FRBの利上げ停止時期が見通せない状況が続いています。
【注】FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーによる2023年末のFF金利予測中央値は約5.1%。あと1回利上げがあることを示唆している。
過去3週間の米国株の動きを簡単に振り返ります。
【1】3週前(3月6~10日)
米国で銀行不安が始まり、米国株が大幅安に。SVB(シリコンバレー銀行)の株価が急落。10日に破綻。続けて12日にシグネチャーバンクが破綻。これをきっかけに、欧米に金融不安が広がり、世界的に金融株が売り込まれました。
3月6~10日に米国株が売り込まれたのには、もう一つ不安がありました。米利上げが加速する不安です。パウエルFRB議長は3月7日の議会証言で、「必要ならば利上げ幅を再び拡大することもあり得る」と発言しました。これで、3月22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.5%の利上げが行われる不安が高まり、米国株の下落につながりました。
【2】2週前(3月13~17日)
欧米の金融不安はさらに深刻になりました。欧州では、かねてより経営不安がうわさされていたCS(クレディ・スイス)の株価が急落、預金流出の危機が高まりました。米国では、SVB・シグネチャー銀行破綻をきっかけに、地方銀行全般に信用不安が広がりました。世界中で、金融株の下落が加速しました。
一方、金融不安が高まったことにより、FRBが利上げに慎重になるとの見方が広がり、米国で2年金利が急低下しました。その恩恵で、2週前はグロース株が買い戻され、ナスダック総合指数(ナスダック)が大きく反発しました。
【3】先週(3月20~24日)
欧米の金融当局が、金融不安を抑えるために「なんでもあり」の対策を発動した効果で、金融不安は低下すると一部に楽観的な見通しが出ました。
パウエルFRB議長は22日、0.25%の利上げを決めたFOMC後の記者会見で、銀行不安の重要性をコメントしたものの、「銀行システムは健全で回復力がある」と話しました。イエレン米財務長官も、16日の上院財政委員会で「米国の銀行システムは引き続き健全」と発言しています。
一方、利上げが早期に停止する期待は後退しました。22日、FRBは0.25%の利上げを実施したからです。さらに、年内あと1回、利上げがあることを示唆しました。早期に利上げは停止し、年内利下げもあると織り込んでいる金融市場と、大きなギャップがあります。
FRBは22日、FF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を4.50~4.75%(中心4.625%)から4.75~5.00%(中心4.875%)へ引き上げました。金融不安よりもインフレ抑制を優先する姿勢を示しました。