「複雑さを愛せ」今どきの金(ゴールド)分析

 たった一つの材料で金(ゴールド)相場が動いていると考えてしまうと、ウクライナ危機が勃発したり、FRB(米連邦準備制度理事会)が急速な利上げをしたりして混乱が拡大した2022年の金(ドル建てスポット)価格の騰落が「マイナス」だったことを説明することができなくなってしまいます。

 あれだけ「有事のムード」が強まった2022年の金(ゴールド)相場が「マイナス」だったのは、「有事のムード」起因の上昇圧力を相殺して余りある下落圧力が存在していたためです。その下落圧力は、ドルが急伸したことでもたらされた「代替通貨」起因の下落圧力です。

 2022年の金(ゴールド)相場は、「有事ムード」起因の上昇圧力と同時に、それを相殺して余りある「代替通貨」起因の下落圧力があったため、「マイナス」だったのです。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く七つのテーマ(円建ての場合は八つ)

出所:筆者作成

  時間軸が異なる七つのテーマ起因の圧力(上昇・下落ともに)が、常時相場にかかり続けているわけですが、日本で取引されている価格の単位が円の金(ゴールド)「円建て金」については、八つ目のテーマがあります。「ドル/円の変動」です。2022年、「円建て金(ゴールド)」は、小売価格、先物価格、ともに史上最高値を更新しました。円安が急進したためです。

 円安が進むと、他の通貨建ての金(ゴールド)に比べて割安感が強まるため、(金に限らずですが)上昇しやすくなります。このため2022年は「ドル建て金(ゴールド)下落・円建て上昇」となったのです。

 また、円建てはドル建て価格とドル/円からほぼ機械的につくられた価格だと言えます(以前の「金(ゴールド)最高値更新!人類最後の日!?」を参照。円建て換算値の値動きの山谷と実際の円建て価格の値動きの山谷はほぼ同一)。

 このため、2022年の円建て価格の急騰は、ウクライナ危機がもたらした有事がきっかけではなかった(円安によって生まれた急騰だった)と言えます。

図:円建て商品(コモディティ)の価格決定のイメージ

出所:筆者作成

  金(ゴールド)相場の動向を追う際は、時間軸が異なる七つのテーマ起因の圧力(上昇・下落ともに)が、常時相場にかかり続けていることに留意しなければなりません。そして「円建て金」の相場動向を追う際は、八つ目として「ドル/円の動向」を加えなければなりません。