中長期ならば、中央銀行の保有高の動向に注目

 ここからは、長期視点の金(ゴールド)価格の動向に注目します。長期の価格変動に影響を与え得るテーマはいくつかありますが、近年目立っているのが「中央銀行」です。

 多くの中央銀行は「外貨準備高」の一部を金(ゴールド)で保有しています。世界的な金の調査機関「WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)」は、今年1月、2022年の中央銀行の金保有(純購入)が55年ぶりの高水準だったと公表しましたが、今月、「過去最高」だったと訂正しました。(調べたところ、1970年前後以前のデータのプラスとマイナスが逆だった模様)

 ウクライナ危機勃発(2022年2月)以降、西側(欧米や日本など)と非西側(ロシアやロシアに同調する国々)との間の溝が日に日に深まっています。こうした中で、非西側が、西側が多用する「米ドル」ではない通貨を模索する中で金(ゴールド)が選ばれていると考えられます。

 また、ロシアは、制裁下でも資金の融通を可能にするための「抜け道」として、中国は、ウクライナ危機の混乱に乗じ、「自国通貨の安定化」と「脱米ドル」の両立を加速させる目的で、金(ゴールド)の保有高を増やしている可能性があります。

図:中央銀行の金(ゴールド)購入量(WGCの訂正版より)

出所:WGCの資料より筆者推定

 グラフの通り「中央銀行」の金保有高増加は、2010年代前半から目立ち始めていました。「非民主的な国々」の中央銀行の保有高増加が背景にあります。

 スウェーデンのヨーテボリ大学のV-Dem研究所は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由・民主主義的な傾向を示す複数の側面から、「自由民主主義指数」を算出しています。同指数は、0から1の間で決まり、0に近ければ近いほど「非民主的」、1に近ければ近いほど「民主的」な傾向が強いことを示します。

 例えば、「中国」の、2013年の同指数は「0.05」、2021年は「0.04」でした。「非民主的」な傾向が、長期化していることがうかがえます。また、もともとポーランドやブラジルは「0.80」を超える「民主的」国でしたが、2021年は「0.50」近辺まで低下し、「非民主的」な傾向が強まっていることがうかがえます。

 もともと非民主的だった国々や、近年、非民主的になった国々の中央銀行による保有高増加が、世界全体の金(ゴールド)需要を増大させる要因になっていると言えます。

図:金(ゴールド)保有増加上位と自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所、WGCのデータをもとに筆者作成