今、コモディティ価格の確認は市民の必須タスク

 なぜ、わたしたちは、コモディティ(国際商品)価格の動向に注目しなければならないのでしょうか。コモディティ価格は、社会のありとあらゆる分野と関わりがあります。このため、コモディティ価格の動向に関わりがない人はほとんどいません。

 家計における、光熱費、食費などの基礎的支出(必需品のための支出)の額は、コモディティ価格が上下することで変動します。特にウクライナ危機勃発以降、わたしたちは、原油やLNG(液化天然ガス)の価格上昇が光熱費を増加させたり、小麦、トウモロコシ、食用油などの価格上昇が食費を増加させたりしていることを、感じています。

 企業においては、例えばパンなどの食品を製造する会社や、自動車や電子部品などの各種工業製品を製造する会社の原材料の仕入れ額は、農産物、金属、エネルギーなどのコモディティ価格の動向に影響を受けます。また、運送用の燃料代、工場や事務所を稼働させるための電気代も、コモディティ価格の動向に影響を受けます。

 冒頭で述べた「なぜ、わたしたちは、コモディティ価格に注目しなければならないのか?」という問いの答えは、コモディティ価格の変動が、わたしたちの暮らしのコストを増減させるため、です。

 コモディティ価格は、個人や企業の活動に影響を与えるだけでなく、政治・経済・社会動向を変化させる「原因」になることがあります。逆に、経済指標として世界経済の状況を示したり、人口増加や生活スタイルの変化を反映したりする「結果」となることもあります。

「原因」と「結果」に加えて、投資の「機会」にもなり得ます。コモディティ価格の変動が、関連する投資商品の価格を、引いてはそうした投資商品を保有している投資家の資産の額を変動させるのです。

図:コモディティ(国際商品)価格の意味

出所:筆者作成

「いつもの取引ツール」で価格参照が可能に

 前回の「侵攻開始から1年 市場環境の総まとめ&今後の展望」で述べたとおり、ほとんどのコモディティ銘柄の価格は、1年前に比べて下落しました。

 しかし、2016年から2019年の、コロナもウクライナもなかった時期の平均価格に比べれば、およそ1.4倍程度高いことは、世の中に浸透していないように思います。(ウクライナ危機勃発後のピークから下落したことは、盛んに報じられている)

 こうした状況にあって、わたしたちがコモディティ価格の推移を、手軽に確認する術(すべ)はないのでしょうか。できるだけ手軽に、可能であれば、使い慣れている「いつもの取引ツール」で確認できるとよいでしょう。

 多彩な意味を持つコモディティ価格のほとんどが、価格の単位が米ドルの「ドル建て」です。ドル建ての原油、銅、小麦などの価格推移を確認することができれば、ウクライナ危機勃発後のピークからどれだけ下落したのか、さらには、ここ数カ月間、下落が続いているのか、横ばいなのか、反発に転じたのかが、分かるでしょう。

 実は、幅広いジャンルの多数の主要なコモディティ銘柄の価格を一覧で確認でき、数タップするだけで超短期・短期・中期・長期の価格推移を確認できるツールがあります。もちろん、「いつもの取引ツール」です。たくさんの投資家の皆さまにご愛用いただいている、スマホアプリ「iSPEED」です。

図:スマホアプリ内のコモディティ価格とチャート

出所:iSPEEDより筆者抜粋

 国内株式や米国株式などが取引きできるスマホアプリ「iSPEED」画面下の「検索」→「CFD銘柄一覧」で、ドル建ての各種コモディティ価格の一覧や、各種チャート(分足、日足、週足、月足)を確認することができます。

 先述のとおり、コモディティ価格は、個人や企業活動、政治経済などに影響を与える「原因」であり、経済情勢や人類の活動の規模・頻度を示す「結果」でもあります。このため、投資家の皆さまにとって、コモディティ価格は重要な投資情報の一つだと言えるでしょう。

 その意味で、個人投資家の皆さまが、「いつもの取引ツール」でコモディティ価格を一望できる環境が整ったことは、まさに、革新的だったと言えるでしょう。(2023年1月に、楽天CFDのサービスがはじまった)

「投資機会」としてのコモディティ価格

 ここからは、「投資機会」について述べます。スマホアプリ「iSPEED」で確認することができるコモディティ価格は、「商品CFD」の価格です。

 CFD(シーエフディー)取引とは、現物での受け渡しを行わない、反対売買で決済する「差金決済取引(Contract for Difference)」のことです。多数の投資家の皆さまになじみのあるFX(外国為替証拠金取引)もCFD取引の一つです(通貨CFD)。

「iSPEED」で価格を参照したり取引をしたりすることができる商品CFDは14銘柄あります。ウクライナ危機と関わりが深い銘柄で言えば、原油(WTI、ブレント)、天然ガス(米国)といったエネルギー、小麦、トウモロコシ、大豆といった穀物、プラチナ、パラジウム、銅といった金属があります。

図:アプリ内で投資家の皆さまができること

出所:筆者作成

 また、米国の金融政策の影響を受けやすい金(ゴールド)と、それに追随する傾向がある銀、コモディティの中では比較的マイナーな、コーヒーや粗糖(砂糖の原料)、ココアといった農産物もあります(足元、これらのマイナーな銘柄の価格上昇が目立っている)。

「iSPEED」内で投資家の皆さまは、こうした商品CFDの銘柄を、重要な投資情報として参照することはもちろん、投資機会として活用することもできるのです。

金(ゴールド)、米雇用統計で短期の価格変動大

 ここからは、短期視点の金(ゴールド)の価格動向に注目します。以下はCFD銘柄の一つ、金(ゴールド)の原資産であるドル建てのスポット(現物)の、2023年2月2日から7日までの価格推移です。価格が短時間で急騰・急落したことがわかります。

図:ドル建てスポット金(ゴールド)の推移(5分足 終値) 単位:ドル/トロイオンス
※時刻は日本時間

出所:Investing.comの資料より筆者作成

 FOMC(米連邦公開市場委員会)の声明文が公開されたとみられる時刻(日本時間2日午前4時30分ごろ)から、2時間でおよそ26ドル(1.4%)も上昇しました。

 当該FOMCでFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げ幅を0.25%に縮小したことを受けてドルが下落、同時にドルと「ほぼ世界共通のお金」という共通点を持つ金(ドル建てゴールド)が上昇、という流れが強まりました(ドル安・金高)。

 同日夜(日本時間2日午後10時30分ごろ)、早朝と逆の動きが発生しました。同時刻に米国で発表された新規失業保険申請件数が、予想および前回よりも強い内容だったことを受け、利上げ継続観測が再燃してドルが上昇、同時に金が下落しました(ドル高・金安)。2時間でおよそ27ドル(1.4%)、下落しました。

 そして翌3日の夜(日本時間3日午後10時30分ごろ)、2時間でおよそ38ドル(2.0%)も急落しました。前日の夜と同様、米雇用統計が強い内容だったことを受け、「ドル高・金安」が進行しました。

 このように、市場が米国の金融政策に強い関心を示している場合、同金融政策の方向性に影響を与える経済指標の発表直後は、ドルや金(ドル建てゴールド)は、乱高下することがあります。

 CFD取引はFXと同様、レバレッジが効いている上(てこの原理により、預けた資金以上の額の資金を動かすことができる)、値上がりで利益が出る「買い」(値下がりは損)、値下がりで利益が出る「売り」(値上がりは損)、どちらでも取引ができるため、こうした短時間の価格急変は、慣れた投資家の皆さまにとっては「投資機会」になるかもしれません。

中長期ならば、中央銀行の保有高の動向に注目

 ここからは、長期視点の金(ゴールド)価格の動向に注目します。長期の価格変動に影響を与え得るテーマはいくつかありますが、近年目立っているのが「中央銀行」です。

 多くの中央銀行は「外貨準備高」の一部を金(ゴールド)で保有しています。世界的な金の調査機関「WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)」は、今年1月、2022年の中央銀行の金保有(純購入)が55年ぶりの高水準だったと公表しましたが、今月、「過去最高」だったと訂正しました。(調べたところ、1970年前後以前のデータのプラスとマイナスが逆だった模様)

 ウクライナ危機勃発(2022年2月)以降、西側(欧米や日本など)と非西側(ロシアやロシアに同調する国々)との間の溝が日に日に深まっています。こうした中で、非西側が、西側が多用する「米ドル」ではない通貨を模索する中で金(ゴールド)が選ばれていると考えられます。

 また、ロシアは、制裁下でも資金の融通を可能にするための「抜け道」として、中国は、ウクライナ危機の混乱に乗じ、「自国通貨の安定化」と「脱米ドル」の両立を加速させる目的で、金(ゴールド)の保有高を増やしている可能性があります。

図:中央銀行の金(ゴールド)購入量(WGCの訂正版より)

出所:WGCの資料より筆者推定

 グラフの通り「中央銀行」の金保有高増加は、2010年代前半から目立ち始めていました。「非民主的な国々」の中央銀行の保有高増加が背景にあります。

 スウェーデンのヨーテボリ大学のV-Dem研究所は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由・民主主義的な傾向を示す複数の側面から、「自由民主主義指数」を算出しています。同指数は、0から1の間で決まり、0に近ければ近いほど「非民主的」、1に近ければ近いほど「民主的」な傾向が強いことを示します。

 例えば、「中国」の、2013年の同指数は「0.05」、2021年は「0.04」でした。「非民主的」な傾向が、長期化していることがうかがえます。また、もともとポーランドやブラジルは「0.80」を超える「民主的」国でしたが、2021年は「0.50」近辺まで低下し、「非民主的」な傾向が強まっていることがうかがえます。

 もともと非民主的だった国々や、近年、非民主的になった国々の中央銀行による保有高増加が、世界全体の金(ゴールド)需要を増大させる要因になっていると言えます。

図:金(ゴールド)保有増加上位と自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所、WGCのデータをもとに筆者作成

長期視点で金(ゴールド)価格は上昇か

 ウクライナ危機は長期化する可能性があると、筆者は考えています。混乱に乗じて影響力を高めようと画策する国が現れたり、混乱がきっかけで生じた資源価格の高騰を謳歌(おうか)する国が現れたりしているためです。

 そして、こうした混乱が長期化すればするほど、「非民主的」な国の金保有増加が長期化する可能性があると、筆者は考えています。以下の通り、「中央銀行」は長期の価格変動に影響を与え得るテーマです。

 足元、価格水準こそ高くはありますが、長期視点でみれば、「中央銀行」のほか、「中国・インドの宝飾需要」、超長期的には「見えないリスク」など、価格を下支えし得るテーマは複数あります。

 値ごろ感にとらわれず、材料を俯瞰(ふかん)しながら、価格推移を確認することが重要であると、考えます。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く七つのテーマ

出所:筆者作成

※本レポートで言及した、スマホアプリ「iSPEED」で価格の閲覧や取引ができる商品CFDの詳細をお知りになりたいかたは、こちらをご覧ください。