ハンセン指数とナスダックの関連性

 この1カ月の株価の動きをみると、香港ハンセン指数はリバウンドを挟みながらも下落トレンドが続いています。一方上海総合指数は春節明け以降、いったん底打ち反転しています。

 ダウ工業株30種平均、TOPIX(東証株価指数)が弱いながらも底割れには至っていない中で、香港ハンセン指数は厳しい下げが続いています。今回は、香港ハンセン指数の先行きについて、少し細かく分析しておきたいと思います。

2022年1月以降の主要株価指数の推移

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2022年10月14日)

 市場関係者の間では、香港ハンセン指数はナスダック総合指数との関連性が高いといわれています。そこで、過去7年弱の期間について、2018年4月末をそれぞれ100として両指数の動きを比べてみると、確かに2018年4月末よりも以前のデータでは極めて高い相関関係が見て取れます。しかし、以降のデータでは明暗を分ける動きとなっています。

図.香港ハンセン指数とナスダックとの比較

期間:2015年12月末~2022年10月14日(月次)、2018年4月末=100。
出所:MARKET SPEEDⅡより筆者作成

 ドナルド・トランプ政権時代の2018年4月、米通商代表部は通商法301条に基づいて中国からの輸入品に追加関税を付加することを決め、品目リストを公表しました。米国による対中強硬策が始まったこの時点を境に香港ハンセン指数はナスダックとの連動性を失っています。

 米国は中国からの輸入品に懲罰関税をかけただけではありません。特定の中国ハイテク企業に対して輸入を制限したり、米国企業に対してそうした企業への輸出を制限したり、米国に上場する中国企業を実質的に上場廃止に追い込むような法律を定めたりしています。

 ジョー・バイデン政権に移行してからは、トランプ前大統領がほぼ無関心であった人権問題や台湾問題も引っ張り出して強硬策を打ち出しており、同盟関係国との協力関係を強化し、それらの国々を巻き込む形で対中包囲網を形成しようとしています。

 香港市場は、一面では欧米が中国との取引の窓口として育成、発展させた市場です。本土側からすれば、香港市場は本土金融市場の安全性を確保した上で、欧米からの資金を吸収するためのオフショア市場といった位置付けです。

香港株への投資チャンスはある!二つの理由

 現在も、閉鎖的な本土金融市場ですが、QDII(適格国内機関投資家)、ストックコネクトを通じて、当局の厳しい管理の下で少しずつ本土の資金が香港に流入するようになってはいますが、依然として全体の時価総額に占めるそうした資金の割合は大きくありません。ですから、香港市場は欧米機関投資家の投資マインドによる影響から逃れることはできません。

 しかし、だからと言って、この先も香港株への投資にチャンスがないかと言えばそうではなく、チャンスは十分あると考えています。理由は主に二つあります。

 一つは、歴史的にみて、現在のバリュエーションは十分安くなっているという点です。

 2000年から月末時点(直近は10月14日)の市場平均PER(株価収益率)の動きをみると、10月14日は9.33倍まで下落しています。過去22年弱のデータでは10倍を割り込んでいた時期はとても短く、割り込んだ後はいずれも大きく上昇しています。

 米中関係が緊迫した後でも、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した直後に10倍を割っていますが、その後いったん、大きく戻しています。つまり、現在の水準は売られ過ぎではないのかということです。

 もう一つは、欧米機関投資家は自由な経済活動の中で資金運用を行っており、収益機会に貪欲であるという点です。

 トランプ政権時代の懲罰関税措置は、中国の輸出産業を弱めたとはいえず、逆に、新型コロナ禍を通じ、グローバル経済における中国製造業の強さ、重要性を浮き彫りにしています。

 バイデン政権は10月7日、中国を念頭に半導体関連製品の輸出管理規制を強化する暫定最終規則を公表しましたが、直後に、欧米の半導体関連メーカーの株価が急落しました。

 現在の国際経済は、企業取引が国境を越えて複雑に絡み合う、高度にグローバル化されたシステムで成り立っています。米国政府といえども自由にコントロールできるほどその仕組みは単純ではありません。相手国企業を攻撃すれば、それと同じかそれ以上の強度で自国企業にその影響が返ってきてしまいます。

 また、米国は自由主義国である以上、企業の経営権をコントロールする手段は限られます。現在の米国経済、国際金融、不安定な政治状況やグローバル企業、金融機関には不人気であることを考えれば、対中強硬策は早晩行き詰まるだろうと予想します。

 ちなみに、台湾問題でこじれて米中の軍事衝突まで想像する極端に悲観的な投資家の方もいらっしゃるかもしれませんが、核保有国同士の戦争はありえないと考えます。

 株式投資は安い時に買って、高い時に売ってこそ、大きな収益を得ることができます。長期的にみた現在の株安は投資のチャンスではないかと考えます。