欧州では玉突きで需給ひっ迫・価格上昇が発生

 西側諸国※は、今年2月24日にはじまったロシアによるウクライナ侵攻勃発直後から、ロシア産のエネルギーを「買わない」姿勢を鮮明にしています(西側諸国は、冷戦時代にできた、旧ソ連を中心とした社会主義陣営に対するグループのこと。米国や欧州の主要国で構成。広い意味では日本も含まれる。資本主義陣営ともよばれる)。

 西側の制裁には、蛮行を繰り返すロシアを国際的な枠組みから排除したり、収入を絶ち、ロシアの軍事活動を縮小したりする狙いがあります。危機勃発からおよそ7カ月が経過しましたが、従前からロシアにエネルギー供給を依存していたEU(欧州連合)諸国で、制裁実施に欠かせない「脱ロシア」は進んでいるのでしょうか。

 以下のグラフは、EUのエネルギー輸入額を示しています。ほとんどの国からの輸入額が増えているのは、天然ガスや石炭の価格が高騰しているためですが、一つ言えることは、ロシアからの輸入額は、まだまだ高水準であることです。

図:EUのエネルギー(石炭、石油、天然ガスなど)輸入額 単位:百万ユーロ

出所:EURO STATのデータをもとに筆者作成

 ウクライナ危機勃発後、英国やサウジアラビアなどからの輸入が増えましたが(ロシア産の代替模索の結果か)、ユーロ圏以外からのエネルギー輸入額におけるロシアの割合は23%(2022年7月時点)と、まだ高水準と言わざるをえません。

 今後、こうした「ロシア依存」を解消すべく(制裁を徹底すべく)、今まで以上に「買わない西側」が鮮明になると考えられます。そうなると、今まさに起きている、以下のようなEUにおけるエネルギーの玉突き的な価格高騰が継続・拡大する可能性があります。

 ロシアからの天然ガス供給量が減少すれば、発電向けの石炭需要が増して石炭価格が高騰、それに伴い電力価格が高騰(天然ガス価格も高騰)。ロシアからの原油供給量が減少すれば、乗り物向け燃料(軽油やガソリン)価格や暖房などの各種燃料(LPガスなど)価格が高騰(原油相場にも上昇圧力)。

 価格高騰のほか、エネルギー調達でも玉突きが起きています。EUは、ロシアからのエネルギー供給量が減少したことで、他の国や地域からの調達を進めています(今のところ、供給の減少に見合う分、需要を減らして対応する(調達量を減らす≒生活の水準を落とす)動きは目立っていない)。

 ここに、冒頭で述べた天然ガス(米国)価格の高騰や、それに伴う関連企業の株価上昇の主因があります。エネルギー関連企業にとって、EUで起きている玉突き的な価格上昇や調達経路の変化は、大きなビジネスチャンスになっているのです。舞台は米国です。