上海総合指数が上昇トレンド形成
上海総合指数は4月27日安値をボトムにしっかりとした上昇トレンドを形成しています。ハンセン指数も、ボトム(ただし、二番底)は少し後ずれして5月10日ですし、6月9日以降押し目を形成してはいますが、6月17日時点で上昇トレンドを維持しているといってよいでしょう。
株価を押し上げる材料は先月もお伝えした通り、新型コロナ禍の収束とそれに伴うゼロコロナ政策実施地域の縮小であり、落ち込んだ景気を引き上げるために実施されている景気刺激策への期待です。
一方、ハンセン指数が押し目形成となった株価押し下げ要因は、米国で進むインフレ、利上げペースの加速、それに伴う景気減速懸念、さらにはグローバル市場への金融引き締め政策の波及などです。
2022年1月以降の主要株価指数の推移
今後の景気対策効果と金融対策の見通し
今後の相場見通しのポイントは、中国の景気刺激策の広がりとその効果、米国のインフレとその対応策である利上げ、QT(量的金融引き締め)を含めた金融政策の見通しなどです。
まず、中国要因ですが、5月の国務院常務会議で発表された6方面、33項目にわたる「さらに一歩進んで経済を安定させるための一連の措置」が大きな意味を持つと考えます。
6方面について、まとめると以下の通りです。
- 財政政策
- 金融政策
- インダストリアルチェーンの安定
- 消費と有効な投資の促進
- エネルギーの安全確保
- 基本となる民生の保障
マクロ政策の割には、全体を通して結構細かい内容となっています。例えば「3.インダストリアルチェーンの安定」では、スムーズな貨物輸送を保証したり、新型コロナ禍を理由に設定された不合理な規定、費用を取り消させたり、航空会社に対して1,500億元規模の緊急融資、2,000億元規模の債券発行枠を与えたりしています。
また、「4.消費と有効な投資の促進」では、自動車の購入制限を緩和し、段階的に購入税減税を行う、投機でない住宅需要の拡大を支持する、大規模なかんがい事業、交通関連プロジェクト、老朽化した地域の開発、地下の総合管理プロジェクトなどを積極的に承認し、銀行から多額の資金を引き出すなどといったことが示されています。
中央は大きな政策の設計図を作ったわけですから、今後は地方政府がこれに合わせて全力で政策を実行するといった仕組みで、中国全体が生産、投資、消費の全面的な拡大を始めています。
新型コロナ禍が再燃しないか心配な面もあります。もっとも、ゼロコロナ政策は高位の政治的な決定によるものですが、景気刺激策も同じです。結局、どちらも共産党が責任を持って強権をもって取り組むということになります。これまでもそうだったように、今回もやりきるだろうと予想します。
4-6月期の成長率が気になりはしますが、悪ければその分7-9月期の政策強度が上がるので、ネガティブサプライズとなったとしても市場への影響は一時的だとみています。
米国要因については全てがインフレ次第なのですが、そのインフレをどう見るかによって、見通しが大きく変わってきます。
新型コロナ対策として米国をはじめグローバルで大幅な金融緩和が行われました。それが要因でインフレが進んでいるのだとしたら、金融を引き締めればよいでしょう。
しかし、そうではなくて、供給側の要因、すなわち、2020年に発生した新型コロナパンデミックの影響で、物流に大きな支障が出て、2020年秋以降、エネルギー、原材料、中間投入財などの生産者物価指数が大幅に上昇し、消費者物価指数の上昇につながったとしたら、どうでしょうか。
2022年3月以降、ウクライナショック、欧米によるロシアへの制裁などによりグローバルなサプライチェーンが一部分断され、エネルギー、食糧供給が一部遮断され、その影響がパンデミックの影響に加わったことで、生産者物価、消費者物価ともに大きく上昇したとすれば、どうでしょうか。
日本は1990年以降、長く厳しいバブル崩壊を経験しました。崩壊直後には、日本銀行の政策対応の遅れを責める論調もありました。
しかし、日本銀行は物価や金融システムの安定維持が主要な任務であり、株価、不動産価格といった資産価格の急騰について、直接管理するような立場にはありません。そのため、引き締め政策への転換が遅れ、結果的には金融システムの安定を損ねてしまったのですが、それを責めるのは酷だと思います。
FRB(米連邦準備制度理事会)の業務範囲も日本銀行と同様です。FRBに供給サイドで起きている現象を食い止めるすべはありません。
インフレを防ぐには供給サイドで起きているショックを和らげるような政策、例えばグローバルなインダストリアルチェーンを安定させたり、エネルギー、食品の供給を安定させたりするような産業政策であったり、時には外交政策が必要であったりするかもしれません。
だとしたら、ここで総需要を萎縮させることで物価を安定に導こうとしても、期待されるほど価格は下がらないかもしれません。それでもインフレを抑えようと金融引き締め政策をさらに加速させれば、厳しいリセッションに陥りかねません。
ジョー・バイデン政権の経済運営に対する総合力が問われているように思うのですが、その点を考えると先行きが少し心配です。
ただ、本土市場や、本土企業を中核銘柄とする香港市場については、ファンダメンタルズの面では相対的に日米欧の企業と比べ見通しが良いと考えます。共産党が全力で政治的な約束事を達成しようとする力に注目すべきだと考えます。