なぜ円安は円建て商品の価格を押し上げるのか?

「円建て」は他のコモディティでも騰勢を強めている

 円建て金(ゴールド)とドル建て金で、およそ10%のパフォーマンスに差が生じた期間、プラチナ、原油、トウモロコシも、金と同様、円建てのパフォーマンスがドル建てを上回りました。

図:「異通貨同一商品」のパフォーマンス比較(2月24日と4月14日の比較 金は2月24日と4月15日)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 いずれも、「主」である指標性を備えたドル建て価格よりも、「従」である円建て価格の方が、上昇率が高いわけですが、この事象を説明するのに登場するのが「ドル/円相場の急変」です。

 上記のように、「異通貨同一商品」において、円建てのパフォーマンスがドル建てを上回ったのは、「主」よりも「強弱」によってもたらされた圧力が強かったためです。円建ての上振れ分(ドル建て以上の上昇分)は、「ドル/円相場が大きく動いたこと」によって作られた、と言えます。

「円ドルレシオ」に見る「ドル/円」の影響

 先程掲載した図「国際商品における「ドル建て」と「異通貨 同一商品」の関係」で示したとおり、「円建て」銘柄の価格は、主である「ドル建て」に追随することが基本であり、「主従関係」に「強弱」をもたらす要素に「為替」などが挙げられます。

 円建てとドル建てのパフォーマンスに明確な差が生じた期間、以下のとおり、ドル/円相場は急激に円安方向に推移していました。(115円近辺→126円近辺。10円超円安進行)

 また、ドル/円相場の急激な上昇(円安方向への推移)開始とほぼ同時に、「金(ゴールド)の円ドルレシオ」も、上昇しはじめました。

図:金(ゴールド)の円ドルレシオとドル/円相場

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

「円ドルレシオ」は、「円建て金÷ドル建て金」で計算しました。このため、値が高ければ高いほど、円建て価格がドル建て価格に比べて強いことを意味します。

 ドル/円相場と「金(ゴールド)の円ドルレシオ」は、ほぼ同時に騰勢を強めていることから、「主」であるドル建て金価格が「従」である円建て金価格に影響を及ぼしつつも、ドル/円が強い「強弱」を加えていたことがうかがえます。

「急激な円安」が与える影響

 報道を見ていると、「急激な円安」をきっかけとした円建て価格の上昇(ドル建て以上の上昇)について、さまざまな説明がなされています。

「円安=輸入物価上昇」という連想で円建て価格が上昇している、円安は「円が弱い・ドルが強い」ことを意味し、同じ商品でも弱い通貨で取引されている方が割安に映り、買われている、などです。

図:急激な円安発生時の「円建て」市場の内情

出所:筆者作成

 上記2点のほか、「理論値」が上昇し、円建てに先高観が生じる点も挙げられます。

理論値とは計算上の価格

 理論値はその時の「ドル建て価格」と「ドル/円」から求められる計算上の「円建て価格」です。(理論値を用いて本格的に売買をする場合は、ドルや金(ゴールド)の金利などを考慮する必要がありますが、ここでは簡易的な説明にとどめます)

図:金(ゴールド)の理論値と実態

出所:筆者作成

 ドル建てスポット金(ゴールド)、ドル/円、それぞれの終値から計算した理論値は(スポット金価格×ドル/円÷31.1035)、2月24日が7,072円、4月15日が8,043円で、上昇幅は971円、変動率は+13.7%でした。実際の大阪金先物(中心限月)の上昇幅は935円、変動率は+13.1%でした。

 実際の変動幅と変動率は、理論値をわずかに下回ったものの、「ほぼ」同一と言ってよい値でした。わずか1カ月半で10%弱も進行した円安は、円建て価格に先高観を与え、ドル建てを大きく上回るパフォーマンスを生み出した、と言えそうです。